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連載

第17回 新潟2

前野健太(シンガーソングライター/俳優/エッセイスト)

 目が覚めると雨が降っていた。
 カーテンを開けると、広い駐車場のアスファルトが濡れていた。
 三条市のホテルに泊まった。行ったことのない街だった。新潟市でライブがある、その前日、弥彦村で競輪をして、無料送迎バスで三条市に入った。
 夜、街へ出た。3軒ハシゴして、深夜1時頃、ホテルに戻って眠った。水を大量に飲んでいたので、朝、そこまで酒は残っていなかった。熱めのシャワーを浴びて、荷物をまとめてロビーへ向かった。フロントに荷物を預け、傘を借りた。新潟駅へ移動するまで少し時間があった。とりあえず喫茶店かカフェを探そう。なんとなく宿の周辺を歩き始めた。
 茶店らしきものは、なかった。通りへ出るとあたらし目のオシャレな本屋があった。カフェも併設しているようだった。ただ自分にはちょっとオシャレすぎるかなと、通りを挟んだところから眺めて、通り過ぎた。コーヒーを飲めるところはなかなか見つからなかった。雨が降っていた。古い商店がいくつか残っていた。昔は栄えていたのだろうか。そういえば昨日入った店のママが言っていた。あなたの泊まってるホテルは昔「三条座」と言って、大きな興行をいくつも打っていた劇場だったのよ。すごく賑やかな通りで人が多くて大変だったわ、と。全国いろいろな街がかつて賑わっていた、という事実。そして今衰退しているという事実。旅をしていると、目の当たりにする。
 しばらく道を行ったり来たりしたが茶店はなかった。あきらめて、似合わないだろうけどオシャレな本屋に入った。すいません、コーヒー飲めるんですか? と聞くと、すいません、今日だけやってないんですよ、と。なんてついてないのだろう。あ、そうですか、と冷静を装い、親切な店員さんだったので、この辺にコーヒー飲めるとこないですか、と聞いてみた。すると、少し離れているけど、この通りをずっと行ったところにありますよ、と教えてくれた。ありがたや。礼を言って、あとで戻ってくるので本じっくり見させてもらいます、と告げ、店を後にした。
 雨が降り続いていた。しばらく歩くと、道の標識に、川、という文字が見えた。右の方を見ると、おそらく土手につながるであろう階段が見えた。道を渡りその階段を登っていくと、大きな川が現れた。いい川だ。ベンチがいくつか置いてあって、晴れてたら、ここでモーニングできるのになと思った。菓子パンと缶コーヒーでも買って、ベンチ喫茶。たまにやる。旅先では風情があって、よい。しかし今は雨。ベンチも濡れている。これではできない。仕方ないなと思い階段を降りて元の通りに戻った。

晴れていたらここでベンチ喫茶できただろう。目の前は川

 しばらく歩くと、別の駅の商店街らしきものが現れた。この商店街に茶店はあるのだなと思った。果たして、教えてくれた店は、あった。しかしまだ開店していなかった。時間までぷらぷらしようと、その店を通り過ぎていくと、フルーツ屋が目に入ってきた。店の前にベンチがあって、男性が一人、サンドウィッチらしきものを食べていた。ベンチ喫茶。おそらくこの方も、茶店を探したが見つからず、耐えきれず、このフルーツ屋さんで何かを買ってここで食べておられるのだろう。同じようなタイプの人間だと思った。しかし、真似はできない。彼が先にやってしまっているし、このベンチに一緒に腰掛けるわけにはいかない。チラッと見て、すーっと通り過ぎた。しかしこの先、茶店らしきものは見つからなかった。
 フルーツ屋のところまで戻ると、男性はベンチからいなくなっていた。気になったので店に入ってみた。綺麗な果実が並んでいた。贈答用のものらしい。かなりこだわりのある店と見えた。そして左の棚には、あの、サンドウィッチ。これをあの方は食べていたのだ。フルーツサンド。高い。だが、美味しいですよ〜、と店員さんは言う。食べたいが、真似はできない。仕方なくフルーツジュースを買って、店の中でさくっと飲んだ。もうそろそろ教えてもらったカフェは開いているだろう。戻るとまだやっていなかった。腹が減ったのでとなりの蕎麦屋に入った。朝食に蕎麦か、と思ったが、蕎麦は好きだ。へぎそばをいただいて、カフェが開いたので入った。
 中がとてつもなく広いカフェだった。外を眺めたかったので、窓際のカウンターに座った。ようやくありつけた。1杯のコーヒー。ホテルでもらってきた新潟日報を広げ、窓の外を眺める。よかった。あの本屋さんにお礼を言おう。

 ようやくありつけた一杯のコーヒーと新潟日報

著者情報

シンガーソングライター/俳優/エッセイスト

前野健太

まえの けんた

1979年2月6日生まれ、埼玉県入間市出身。2007年『ロマンスカー』によりデビュー。ライヴ活動を精力的に行い、「FUJI ROCK FESTIVAL」「SUMMER SONIC」など音楽フェスへの出演を重ねる。俳優活動においては、主演映画『ライブテープ』が第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」作品賞を受賞。NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』他、TVドラマ、CM、映画、舞台に出演。エッセイ集『百年後』を刊行するなど、文筆活動にもファンが多く、他アーティストへの楽曲・歌詞提供も行う。最新アルバムは『営業中』(2024年)。文芸誌『すばる』ではエッセイ「グラサン便り」を2014年から2022年まで約8年にわたり連載。

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