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連載

第13回 ニュー道後ミュージック

前野健太(シンガーソングライター/俳優/エッセイスト)

 踊り子さんたちは、ステージの盆のところに集まっていた。軽く自己紹介し、さっそくリハーサル。といってもこういう曲ですというのを一人一人説明していくだけ。どう踊ってもらうかは自由だ。
 ストリップ劇場「ニュー道後ミュージック」が独自に生み出した「怪談ストリップ」の特別興行。前日ライブをやらせてもらった広島ヲルガン座の店主、ゴトウイズミさんが企画したイベントで、毎年「怪談ストリップ」の中の1日を借りて、シンガーと踊り子のコラボを企画しているという。正確には1日の中のワンステージ。その2024年のイベントに呼んでもらった。

ニュー道後壁面、チラシ

   ストリップの踊り子さんが、自分の曲で踊ってくれる。しかも生演奏。目の前で抑揚をつければ、踊り子さんも舞う。そんな貴重な興行。さらにゴトウさんの計らいで、踊り子さん1人につき2曲、前野の曲を選んでもらっていた。皆さんドンピシャな曲ばかりをリクエストしてくれて驚いた。1曲目は少しテンポのある曲。2曲目で盆のところに行き、盆がゆっくり回り、服を脱いでいくので、少しムードのある曲。その順番だけ打ち合わせをした。皆さん全国の劇場を渡り歩くつわものなので、堂々としておられる。心強い。
   リハが終わり外へ出ると猛暑日。8月17日。旅行者たちもぐったりしていた。着替え用に取ってもらっていた宿の一室へ移動し、休憩する。水を大量に飲む。クーラーをつける。シャワーを浴びる。少し横になる。そして歌詞カードをファイルに入れて、曲順を確認し、外へ出る。
   外へ出ると道後の街は夕陽に染まっていた。自分の取っていた宿へチェックインするために歩く。宿の壁にも夕陽が当たっていた。ああ、こういう時間が人生だよなあ、としみじみ思う。さあ本番だ。

道後の夕陽

   劇場の裏口から入り楽屋へ。踊り子さんたちが衣装に着替えたり準備をしている。場内アナウンスが流れる。投光さん(音響と照明を1人で担当する)が、紹介をしてくれる。出ていく。まずは軽く歌う。実はこの劇場で作った歌がある。「恐縮でございます」。前作『ワイチャイ』というアルバムに入っている曲だ。6年前くらいに初めてニュー道後へ訪れた際、場内アナウンスがあまりにも良かったので、その言葉を丸々いただいた。「本日も大変すけべそうな顔してらっしゃいます、恐縮でございます」。記憶していたのは男性の声だったが、実際テープで流れたのは、女性の声だった。そのいきさつをMCで話し、歌った。そして踊り子さんの登場だ。

   照明がグンと暗くなり、手元がまったく見えなくなる。しくじった。久しぶりの曲も多かった。踊り子さんに迷惑をかけたが、段々と調子を取り戻す。目も慣れてきた。普段は目をつむりながら歌うことが多いが、この時ばかりは目を開けた。踊り子さんの「体」に反応したかったからだ。音楽のセッションというのは演奏が下手なので得意ではないが、自分の歌と、相手の踊り、ならやれる。ギターと歌で抑揚をつける、踊り子さんが反応する、それを見てさらにこちらも熱を帯びてゆく。幸せなことだ、と歌いながら思った。儀式、祈り、のようでもあった。踊り子さんは歌詞の世界を演じてくれていた。ねぇタクシー、この街で一番綺麗なところへ連れてって。そんな歌詞を全身で、指先、つま先にまで浸してくれて。

 その昔、ストリップ劇場を巡っていた時期があった。横浜にあった黄金劇場という場所でとある踊り子さんのステージに打たれ、そこから少し、ハマった。何が良かったか。ストリップ劇場で聴く歌が格別だったのだ。知らない歌、知っている歌、色々だったが、踊り子さんのバックに流れる歌は、歌詞がよく響いた。夢、女、花、男……どれもありきたりの言葉だけど、ピンク色の照明に照らされるその肌、指先、中空を見つめる瞳と共に聴くと、その歌詞の中の言葉は咲き乱れた。いや、言葉も裸になるようだった。言葉も孤独なのかもしれない。いつか踊り子さんが使いたくなるような歌を作りたい。ストリップに通ううちに、そんな気持ちを抱くようになっていた。

  それから時は経ち、今目の前では踊り子さんが自分の歌で踊ってくれている。いや、正確にはこれは企画もので、ゴトウさん、ニュー道後のコラボ興行。だから踊り子さんが自主的に、演目の音楽として自分の曲を使ってくれているわけではないのだが……。でも力が入る。思い出す。そういう気持ちを抱いていた、ということを。
   夢の時間はあっという間に終わり、最後は皆で合ポラタイム。演者が全員集まり、お客さんが写真を撮る。合同ポラロイド撮影会。すべて終わり、裏で皆さんに挨拶。ここから踊り子さんは夜の部の通常の演目があるため、楽屋へ戻り、次の準備をする。自分は外へ出て物販をした。新しく出来たばかりのCD『営業中』を売る。沢山の人が買ってくれて助かった。
   それから着替えて外の椅子で社長と軽く乾杯。社長の話を聞く。ストリップ劇場は全盛期は全国に300館以上あったが、今は10数館。中四国はここニュー道後のみ。社長は独自の興行をしなければあとがない、と言っていた。「怪談ストリップ」というものを新しく生み出し、何年も前から続けているという。

怪談ストリップの幟旗(のぼりばた)

   沢山のお金も使った。だけどそれ以上のものをストリップからもらった、とも言っていた。温泉街にあるストリップ劇場の灯を消したらいけんと思う。その言葉が特に響いた。温泉街は人の心がリラックスしていて、ふらっと入りやすい。ストリップ入門、ストリップの入り口としても、初心者にとっても良い。温泉街のストリップ劇場がなくなったら、東京の劇場もなくなると思う。社長は真剣な眼差しでそう言った。俺はここにかけてる。その言葉にしびれた。
『営業中』というアルバムを出したが、いきなりそのテーマの総本山にぶちあたった感じがした。自分はふらふら旅を続けて、たまに店に入って、窓の外を眺めて、歌なんか呑気に書いているが、その窓がなければ、歌だって出来ない。呑気でいられない。店がなかったらライブができない。いや、店がなかったら、街なのだろうか。そもそも、街と呼べるのだろうか。
   荷物を片付け、踊り子さんのステージが終わると、もう周りの店はやっていなかった。コンビニで缶ビールを買い、数人で軽く乾杯。真夏の広島、道後、と濃厚な2日間が終わった。

ニュー道後ミュージックのステージ

   翌日も好天、猛暑日。喫茶店に入り、旅行者を眺めた。皆ゆとりのある表情をしていた。道後温泉に入り、ぷらぷらしていると、昨日の踊り子さんの1人にばったり遭遇。声をかけてくれた。昼食を食べに行くという。またどこかで、と挨拶すると、軽やかなステップで路地へと入って行った。後ろ姿をしばらく見つめた。

著者情報

シンガーソングライター/俳優/エッセイスト

前野健太

まえの けんた

1979年2月6日生まれ、埼玉県入間市出身。2007年『ロマンスカー』によりデビュー。ライヴ活動を精力的に行い、「FUJI ROCK FESTIVAL」「SUMMER SONIC」など音楽フェスへの出演を重ねる。俳優活動においては、主演映画『ライブテープ』が第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」作品賞を受賞。NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』他、TVドラマ、CM、映画、舞台に出演。エッセイ集『百年後』を刊行するなど、文筆活動にもファンが多く、他アーティストへの楽曲・歌詞提供も行う。最新アルバムは『営業中』(2024年)。文芸誌『すばる』ではエッセイ「グラサン便り」を2014年から2022年まで約8年にわたり連載。

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