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全米図書賞

[National Book Awards]
National Book Awards

渡辺由佳里(エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家)

 アメリカの非営利団体である全米図書協会が運営する文学賞。小説、ノンフィクション、詩、翻訳文学、児童文学の5部門。1936年にアメリカ小売書店協会(American Booksellers Association)が始めた賞だが、第二次世界大戦で中止された。戦後の1950年に出版業界のいくつかの団体によって復活し、1989年からは出版業界がスポンサーになって設立した非営利団体・全米図書協会(National Book Foundation)が運営している。

 毎年3月から5月の応募期間内に出版社がその年刊行の作品から推薦作を選び、7月1日までに協会と各部門の選考委員5人に作品を郵送する。著者が自分で応募することはできない。選考委員は夏の間にすべての応募作品を読了し、9月に5部門それぞれで10作が選ばれる。10月には5作の最終候補に絞られ、11 月の授賞式で受賞作が発表される。最終候補には1000ドル、受賞作には1万ドルの賞金と彫像が与えられる。

 翻訳文学部門の作者と翻訳者はアメリカ国民である必要はないが、その他の部門の著者はアメリカ国籍保有者に限られる。著者がアメリカ在住の移民で市民権取得に時間がかかっている場合などは、出版社を通じて協会に嘆願書を出すことも可能。

 2015年にノンフィクション部門で受賞したタナハシ・コーツのBetween the World and Me(邦題『世界と僕のあいだに』)や、2016年に小説部門で受賞したコルソン・ホワイトヘッドのThe Underground Railroad(同『地下鉄道』)のように、アメリカの人種差別問題や奴隷制度といった社会問題や歴史をテーマにしたものが候補作や受賞作になる傾向がある。

 受賞作はメディアで話題になり、大手新聞、雑誌などで「今年のベスト20作」などに選ばれることが多い。候補作と受賞作の表紙には、遠くからも目立つ全米図書賞のステッカーがつけられるので、書店で手に取られやすくなる。受賞前にはさほど売れていなかった作品でも、受賞直後にはニューヨーク・タイムズ紙ベストセラーの上位に入り、売り上げが増えることが多い。週の売り上げが2000部ほどだったのに、受賞後には1万部になった作品もある。文学賞としてはノーベル文学賞やイギリスのブッカー賞のような国際的な知名度はないが、アメリカではピュリッツァー賞と並んで商業的にインパクトがある賞だ。

 2018年に多和田葉子の『献灯使』(アメリカでのタイトルは『The Emissary』、満谷マーガレット訳)、20年には柳美里の『JR上野駅公園口』(同『Tokyo Ueno Station』、モーガン・ジャイルズ訳)が翻訳文学部門賞を受賞したことで、日本でも全米図書賞という賞の名前が知られるようになった。

著者情報

エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家

渡辺由佳里

わたなべ ゆかり

助産師、日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、1995年よりアメリカ在住。ニューズウィーク日本版に「ベストセラーからアメリカを読む」、ほかにcakes、FINDERSなどでアメリカの文化や政治経済に関するエッセイを長期にわたり連載している。主幹する「洋書ファンクラブ」では年間200冊以上読破する洋書の中からこれはというものを読者に向けて発信し、多くの出版関係者が選書の参考にするほど高い評価を得ている。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。著書に『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(2017年、晶文社)、『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(2020年、亜紀書房)、『アメリカはいつも夢見ている』(2022年、ベストセラーズ)など。翻訳書に、『毒見師イレーナ』(マリア・V・スナイダー著、2015年、ハーパーコリンズ・ジャパン)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(デイヴィッド・ミーアマン・スコット他著、糸井重里監修、2020年、日経ビジネス人文庫)、『それを、真の名で呼ぶならば』(レベッカ・ソルニット著、2020年、岩波書店)などがある。

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