imidas - 情報・知識&オピニオン

連載

性知識イミダス:DSD(性分化疾患)について知ろう(後編)~「性別を判定する」とはどういうことか

イミダス編

(構成・文/加藤裕子)

 日本では出生届に性別を記載する欄があり、通常は生まれた子どもの外性器の見た目で性別が判定される。しかし、さまざまな理由によりそれだけでは判断できないとき、医師たちはどのような検査を行い、性別を判定するために必要な情報を保護者に提供しているのだろうか。DSD(性分化疾患)の診察を受けられる専門機関や治療なども含めて、川井正信医師(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター研究所 骨発育疾患研究部門 主任研究員)にうかがった。

【DSD(性分化疾患)について知ろう(前編)~ヒトの性別はどう決まる?「性分化」の複雑な仕組み】からの続き

【編集部註】「ジェンダー」との区別をつけるため、記事の中で「セックス」の領域の「男性」「女性」を示すときは、基本的に「表現型(phenotype)が男性」「表現型が女性」あるいは「男性型」「女性型」とする。「表現型」は 「遺伝子型(genotype)」に対応する言葉で、生物が示す形態的、または生理的な性質のこと。遺伝子型が同じでも「表現型(phenotype)」は異なることがある。

川井正信医師(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター研究所 骨発育疾患研究部門 主任研究員)

* * * * *

性別はどのように判定されるのか

 ――子どもが生まれて、外性器の形から性別の判定に迷うとき、どのように判断されるのでしょうか。

 今の日本で社会生活を送るためには、新生児が生まれたらすぐに、保護者などがその子の性別を届け出なくてはなりません。具体的には生後14日以内に出生届に性別を書き込んで提出することが戸籍法で定められています。通常は、医師や助産師が生まれた子の外性器のかたちを見て性別を判断しますが、それが難しいときのみ、追加の検査が必要になります。
 DSDでは診断名が同じであっても、表れ方によって性別の判定が変わってきたりします。前編でもお話ししたように、DSDの場合、性別は染色体のみで決まるわけではないし、精巣や子宮の有無、あるいは外性器の形状などを踏まえて、総合的に判定します。そのため、経験を積んだ医療スタッフが揃った医療機関で複数の検査を行います。

 まず視診・触診で性腺の有無を確認し、その上で、血液検査、画像検査、尿検査、遺伝子検査を必要に応じて行ないます。また、男性ホルモンの作用による外性器の男性化と、脳の男性化はある程度比例するとも言われていますので、そうしたことも判断材料にしています。子どもの性別を届け出るのは保護者ですが、医療関係者はその責任を共有しつつ、多職種(産科医、新生児科医、小児内分泌科医、小児泌尿器科ないし小児外科医、臨床遺伝科医、遺伝カウンセラー、看護師、臨床心理士、医療ソーシャルワーカーなど)による医療チームで検査結果を総合的に議論します。それでも確定診断に至らないこともありますが、判断材料として必要な情報提供を行い、保護者をサポートしていきます。DSDの多くは新生児期に外性器が非典型的であることで判明しますが、乳児期以降も診断方法は基本的に同じです。

 地域差はあるのですが、DSDに対応できる医療機関を探したいときは、日本小児内分泌学会が作成した性分化疾患診療の中核施設・準中核施設の一覧(外部リンク)などを参考にしていただければと思います。また、こうした専門施設への転院が難しい場合は、医療機関からの質問に対し、専門施設の医療者からオンライン等で助言を行うことが可能です。

 ――「総合的に判定」するということですが、具体的にはどのようなケースがありますか。

 ひとつの例としては、前編でも紹介した「46,XY性分化疾患」に分類されている「完全型アンドロゲン不応症(完全型AIS)」があります。完全型AISの新生児は外性器の形状から「女性」とみなされ、当事者の性自認も女性なので違和感がないまま過ごします。思春期になっても月経が起きない(子宮がないことによる原発性無月経)ことがきっかけで受診し、検査の結果、完全型AISであることが初めてわかる場合もあります。この場合、「染色体核型が『46,XY』で女性になるという道筋があること」を説明すると、当事者も納得して、性別を訂正することはありません。

 あるいは、「46,XX性分化疾患」のほとんどを占める「先天性副腎過形成症(21-水酸化酵素欠損症など)」というDSDでは、副腎が体内で男性ホルモンを過剰に産生するため、外性器が大きな状態になるのですが、染色体核型は「46,XX」で、子宮と卵巣が存在するので妊孕性(にんようせい。子どもをつくる能力のこと)もあります。多くの場合、当事者の性自認は女性であることがわかっているので、女児として養育することが妥当です。

 なお、一部のDSDでは、選択によっては将来、性別違和が生じる可能性があることがわかっているものがあり、特に慎重に判断していきますが、性別違和を覚えるかどうかの割合はDSD当事者とそうでない人とで、それほど変わらないと言われています。

 ――さまざまな検査が必要ということですが、出生届の提出期限である生後14日以内に、必ず性別を判定することができるのでしょうか。

 確かに時間がかかる検査もありますので、出生届の提出期限に間に合わないときは、医師の診断書を添えれば、性別を判定してから後追いで届け出ることができますし、一旦提出された出生届の性別を訂正することも可能です。ただし、修正したことが戸籍に記載されるという問題がありますので、医療関係者は各種検査の結果ができるだけ早くわかるよう、出生後14日以内に結論を出すべく尽力しています。

 生まれた子の性別がすぐにはわからないというのは保護者にとって大変な心理的負担です。だからこそ医療機関では社会的な緊急疾患として可能な限り迅速に対応します。そして、保護者の負担を軽減するためにも、「性別は必ず判断されうること」を伝えます。出生時の外性器の見た目では判断がつかないとき、医療関係者は「男か女かわからない」「不完全」「異常」等のネガティブな言葉をけっして使ってはなりません。また、さまざまな観点から議論を尽くす前に、「たぶん男の子でしょう」「女の子でしょう」などと安易に言うことも避けるべきです。適切な説明としては、「外性器の成熟が遅れているので、性別が判断できるまで少し時間をください」のような表現がいいのではないかと思います。

 科学的な判断をするということはもちろんですが、非典型的なからだの状態で生まれてきた子どもを受け入れ、愛情をもって育てることができるよう、医療者は保護者に寄り添うということも大変重要です。
 保護者の受容は、DSD当事者が自分自身のからだの状態を理解し、受け入れていく上でもきわめて大切と言えます。保護者の気持ちが落ち着き、お子さんがDSDをもっていることを受け入れられるようになった段階で、今後必要になる治療の説明や、今回判定した性別は将来本人の意思で変えられるということを、丁寧に伝えていきます。我々の説明を聞いて一度は納得されても、ネットの情報などを見て混乱される方もいらっしゃいますので、繰り返し、科学的に正確な情報を伝えていくことが重要です。

DSDの治療と心理面でのフォロー

 ――DSDが判明するきっかけやタイミングについて詳しく教えてください。

 最近では出生前診断が一般的になったことで、染色体核型は「46,XY」という検査結果が出ていたのに、生まれてきたら外性器が女性型だったということでみつかるケースも一定数あります。また、出生時の外性器のかたちで性別を決めたけれども、乳児期から小児期にかけてDSDだと判明することもあります。その代表的な例は、鼠径そけいヘルニアと診断された女児の手術中に精巣があることが発見されるパターンです。この場合、「女児なのだから精巣を除去する」ではなく、一度手術を中断し、改めて性別判断の検査を行うことが必要になります。一度戸籍に記載した性別が訂正されるかもしれないという状況が、当事者やご家族にとって大変な精神的負担であることに医療者は配慮し、もし性別を訂正することになったときは、医療ソーシャルワーカーが手続きなどの支援をするのはもちろん、心理面でもサポートしていく必要があります。

著者情報

イミダス編

いみだすへん

関連記事

新着記事

imidasの更新情報をお届けします。