性知識イミダス:今話題のフェムテックは女性のからだをどう変えるのか?
イミダス編
(構成・文/加藤裕子)
前回の「フェムテックでわかった『女性の月経周期』、ほんとのところ」でも述べたように、女性特有の健康にまつわるサービスや商品が、今、テクノロジーによって大きく変化しつつある。「フェムテック(FemTech)」は、英語で女性を意味する「female」と、技術を意味する「technology」を組み合わせた造語で、商品やサービスとしては以前から存在していたものの、2016年頃にこの言葉が登場したことから注目を浴びるようになった。世界におけるフェムテック市場への投資額は2012年の5700万ドルから2018年には6億5000万ドルと急成長、2025年には500億ドル規模の市場になるとも予想されている。
なぜ今これほどフェムテックが注目されているのか、またフェムテックによって女性の健康やライフスタイルはどのように変わっていくのか、日本での最新動向も交えて紹介する。

女性の健康の「真実」が見えてきた
フェムテックとされるものは幅広く、月経や妊娠・出産、乳がん・子宮がんなど女性特有の病気、性生活、更年期など、様々な分野でサービスや商品が展開されている。具体的には、アプリによる月経周期予測、IoTを活用した妊娠中の体調モニタリング、服を着たまま自動で搾乳できるウエアラブル機器、オンラインでのピル処方といったものから、腟内に入れて経血をためる月経カップや吸水型サニタリーショーツなどの生理用品、変わりやすい女性の体調に合わせたサプリメントのサブスクリプション(従量定額制)サービス、おしゃれなデザインの女性用セックストイなど。必ずしもIT関連というわけではなく、女性のからだの悩みに対する多様なソリューションとして提供されている商品も少なくない。
日本を拠点に2019年10月からフェムテック関連商品やサービスの紹介、投資も含めた起業サポートなどを展開する「fermata(フェルマータ)」によると、世界のフェムテック事業者は2017年の約50社、2019年9月時点の221社から大きく伸び2020年3月時点で29カ国318社まで拡大している。「fermata」共同創業者のAminaさんによると、こうしたフェムテック市場の広がりには、いくつかの要因があるという。
「2016年の#MeToo運動による女性たちの権利主張の拡大や、『シーエコノミー』(SHEconomy=『she』と『economy』を組み合わせた造語)と呼ばれる経済力が増した女性による消費拡大に加え、医療分野での「ジェンダード・イノベーションズ」(性差研究に基づく技術革新)も大きな影響を与えています。たとえば、従来、女性は男性に比べてホルモンによる変動が大きいため、医療データが取りにくいとされてきましたが、技術の進歩によって信頼できるデータの取得が可能になりました。これにより、女性のほうが骨粗しょう症やアルツハイマー病を発症する割合が高いなど、生物学的男女の違いが明らかになってきています。いってみれば、女性の健康の真実が見えてきたことで、それにまつわる課題の解決をうながす製品やサービスの開発が活発になっていったという面があります」

Aminaさん
世界的にはサンフランシスコ、ニューヨーク、ヒューストン、ロンドン、ベルリン、テルアビブの6都市がフェムテックの起業家や投資家が集まる拠点になっており、日本においては、2020年4月時点で51のフェムテック企業が存在している。
「フェムテックはまだ新しい市場なので、日本の企業数が特に少ないということではないと思います。ただ、画期的な商品やサービスの展開、あるいは女性起業家の数という点では、アジアの中でもややおとなしいという印象です」とAminaさんは指摘する。先行する欧米のフェムテック市場は、2010年代初頭に月経や妊娠、不妊に関するものが第一波として盛り上がり、現在は更年期にまつわる課題解決が注目されているというが、「日本はやっと第一波が来ているという状態」(Aminaさん)。日本と世界各国では何が異なるのだろうか。
「投資家の世界には男性が多いので、女性のからだの悩み解決というテーマになかなか実感を持てないということもありますが、女性の健康に対するタブー意識という点では、日本も海外も大きな違いはないという気がします。ただ、欧米ではタブー視を自覚し始めた女性が多く、課題解決のためにアクションを起こそうという機運がより高まっているかもしれません。一方、日本でも若い世代はネットでグローバルにつながっていることもあり、かなり欧米に近い感覚があると思います。日本人の学生さんなどから非常にユニークなアイディアを提案されたりもしているので、研究開発への投資も視野に入れつつ、大きな期待を持っています」
世代で変化するタブー意識
女性の健康に関することで、少なくとも月経に対するタブー意識は日本でも大きく変わりつつあるようだ。フェムテックという言葉もまだ生まれていなかった2000年に女性の体調管理のためのデジタルサービスを開始した「ルナルナ」は、当初、経血を想起させるという理由で、告知に赤い文字を使うこともできなかった。2010年前後にテレビコマーシャルを展開した際も、「お茶の間に『生理予測』という言葉を流すなんて、はしたない」というクレームが多数寄せられ、その中には女性からのものも少なくなかったという。
「ルナルナのコマーシャル自体、最初はテレビ局の考査すら通らなかったんです」とルナルナ事業部長の日根麻綾さんは振り返る。「衛生用品として生活に必須な生理用品ならともかく、生理についての話は表に出してはいけないものだという意識が当時は非常に強かったのだと思います。でも、ここ数年、若い世代のインフルエンサーが生理をオープンに語るなど、『生理をタブー視しなくていい』という感覚を持つ人たちが男女ともに増えていると感じています」

日根麻綾さん
そうした変化を象徴するものとして、生理日の情報をパートナーと共有するサービスがある。ルナルナではこのサービスを有料のプレミアムコースで提供しているが、当初は排卵日予測など妊活を目的とするカップルによる使用を想定したという。だが、蓋を開けてみると、サービス利用者の約半数が避妊目的で使用していた。また、避妊や妊活と無関係に、月経に伴うパートナーの心身の体調の変化を理解したいという男性側のニーズも存在することが明らかになった。
「私たちは『ルナルナ男子』と呼んでいますが、パートナーの生理周期を知っていれば、不調な時期にケアできると考える男性が、特に若い世代には珍しくありません。この世代は女性のほうも、自分の体調の一環として生理日をパートナーに伝えることに抵抗がないですね。一方、年代が上がるにつれて、『生理日を男性に管理させるなんて恥を知りなさい』という反応も目立つようになるので、このあたりは世代によるギャップが大きいように思います」

「ルナルナ」アプリのパートナー共有機能の画面
フェムテックによって生まれる気づき
女性の健康に対するタブー意識が薄まってきていることは、フェムテックにとっては追い風と言えるだろう。「fermata」は、日本におけるフェムテック市場開拓のためにリアル・オンライン両軸でイベントを開催し、女性が抱えるからだの悩みについて話し合う機会を設けているが、「創業前初めてのイベントを東京で開催したとき、用意した80枚のチケットはすぐに売り切れてしまい、結果的に100名ほどの方に参加していただきました」と同じく「fermata」共同創業者の中村寛子さんは言う。
「イベントを開催して改めて思うのは、女性の健康についての悩みは本当に幅広いということです。たとえば、世代が違えば抱えている悩みも異なります。20代の若い女性たちは、仕事でがんばりたいけれど子どももほしいならどういう選択肢があるのかということが気になるし、30代、40代になると今度は不妊の悩みが増えていき、さらに上の世代は更年期の不調で苦しんでいたりします。また、一口に月経の悩みといっても、月経痛をはじめ、経血の多さ、周期の不規則さ、無月経など非常に個人差があるわけです。そんなふうに細分化されたものである一方、他の人の悩みを聞くことで、『自分は気づいていなかったけれど、それは悩むことだったんだ』という気づきを得る場面も見てきました。LINEなどを使った参加者限定のコミュニティーでは、皆さん、新しいフェムテック情報に前のめりに興味を持ってくださいますし、パートナーとの性関係や尿もれといった、なかなか人前では話しにくい話題についても、『初めて言えた』という方がいらっしゃいます。イベントという場を通して、課題がどんどん突き詰められていくという感じがありますね」

中村寛子さん