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連載

世界最大の格闘ゲーム大会「EVO2019」参戦記

第21回

百地裕子(プロゲーマー)

 今年も世界最大の格闘ゲーム大会「Evolution Championship Series 2019」――通称EVOに行ってきました。この連載の第1回の記事が2017年のEVOに行ってきたという話なので、連載を始めて2年になりますね。この2年間のうちに国内ではeスポーツが話題を集めるようになり、同大会も多くの人に知られるところとなってきました。今回も熱いリポートをお届けしたいと思います。

選手として参加したかったのだけれど……

 今回のEVOは2019年8月2〜4日(現地時間)の3日間の開催でした。

 会場は毎年おなじみの、米ネバダ州ラスベガスのマンダレイ・ベイ・ホテル(Mandalay Bay Resort and Casino)。メイン種目となったゲームタイトルは、「大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL」「鉄拳7」「ストリートファイターVアーケードエディション」「サムライスピリッツ」「Mortal Kombat 11」「ドラゴンボールファイターズ」「アンダーナイトインヴァースエクセレイトエスト」「ソウルキャリバー6」「ブレイブルークロスタッグバトル」の9種でした。大会全体で1万4000人以上の格闘ゲーマーが集い、日本からも400人以上の選手が参加していました。

 今回一番盛り上がっていたタイトルは、間違いなく「大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL」だと思います。各試合の模様はインターネットで生配信され、大変多くの視聴者を集めていました。とりわけ「大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL」の決勝戦前後が最も高視聴率で、配信を見ていた人は全世界で約24万人(英語放送のみの数値)もいたそうです。予選会場でもたくさんの選手たちが大きな声を出し、煮えたぎったような雰囲気の中で勝利を喜んだりチームメイトを応援したりし合っていました。

 最終日となる3日目のTOP8以降の試合は、アリーナに用意された大きなスタジアムで実施されるのですが、予選はだだっ広い会場にたくさんの長机と簡易椅子が用意され、そこにゲーム機とゲーム用モニターが置かれているといった環境で試合をします。試合をしているプレーヤーと観戦者の距離がとても近いので、声援もガンガン聞こえてきます。相手の応援団の声が大きすぎると、雰囲気にのまれないようにする必要も出てくるのです。

 そんな環境で2日間予選を行い、何千人という参加者の中から勝ち上がった各タイトル8人のみが3日目のスタジアムで試合することができます。とてもとても狭き門ですね。

 私は今回は選手ではなく、自社で所有しているプロゲーミングチーム「忍ism Gaming」所属選手のマネージャー兼広報といった立場で参加してきました。選手として参加できれば良かったのですが、会社の体制を大きく変更した直後だったので、十分に練習時間を取ることができなかったのです。なので「できる範囲で楽しく闘う!」という心持ちで、チームの一員として自分なりの参戦をしてきました。

 プロゲーマー〈チョコブランカ〉を応援してくれている人には、闘う姿を見せられず申し訳ない気持ちでしたが、大会にはとても楽しく参加することができました。来年こそは自分のために使える時間を増やして、闘いに臨めるよう頑張ろうと思います。

2019年のEVO最終日、広大なスタジアムを埋め尽くした格闘ゲームファン

チーム「忍ism Gaming」の奮闘に大歓喜

 我がチームの所属選手は、今回6名参戦しました。各選手ともすごく頑張ってくれて、見ていて思わず声が出るような試合を繰り広げていました。

 なかでも先日「忍ism Gaming」に加入した〈えいた〉選手が、18年冬に開催された世界大会「Capcom Cap(カプコンカップ)」で優勝した〈ガチくん〉選手を倒した場面で私は非常に感動しました。〈えいた〉選手は私と同じ愛知県出身で、私が名古屋で格闘ゲームをプレーしていた頃一緒に活動していた人です。そして彼も私たちと同じ頃に上京し、切磋琢磨してきました。

 16年冬の「Capcom Cap」では、夫の〈ももち〉が〈えいた〉選手に敗れました。そのように非常に強い選手ではあるのですが、17年以降はYouTubeの活動が軌道に乗り、そちらに掛かる時間が多いのでなかなか格闘ゲーマーとしての活動ができない状況になっていました。ですが、本人は「やっぱり格闘ゲームが大好きで、プロとして大会に挑戦したいんだよね!」という熱い思いを語っていました。

 そのような事情もあり、今回「忍ism Gaming」に加入してもらったのですが、そんな彼が自身の思いの丈をぶちまけるような動きで激戦に勝利。全てを出し切った表情で、観客席に向かって思いっきりガッツポーズをしている姿を見てとても感動しました。思いはしっかり形になるんですね。いい試合を見せてもらいました。

 他にも「大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL」に参加していた〈あばだんご〉選手が非常に熱い闘いを重ね、9位という成績を残しました。あと一歩でTOP8に残れるというところで惜敗してしまいましたが、所属選手の活躍を見るのは、自分のことのようにとてもとてもうれしいです!

 また「ストリートファイターV」では、〈藤村〉選手が4位という好成績を残してくれました。最終日の大きなスタジアムで、自分のチームの所属選手を応援できる喜びをひしひしと感じながら、チームメイトみんなと応援していました。広い会場の巨大スクリーンに映る〈藤村〉選手は、いつにも増して凛々しく見えました。彼女さんが大泣きしながら応援している横で、「こうやって応援してくれる、支えてくれる人がいるってのは力になるんだろうなぁ」などと思っていました。

予選会場で横並びとなり、それぞれ試合をする〈ももち〉と〈えいた〉選手

はて、私は力になれているのだろうか

 いつものことですが、私は夫〈ももち〉の試合だけは平常心で見ることができません。夫の試合の時だけ、心臓がぎゅーっとなります。なぜか彼の時だけ余裕がなくなります。今回のEVOでは、〈ももち〉は9位という結果でした。あと1勝すればTOP8に残れるというところまで勝者サイドで順調に勝ち進んでいたのですが、そこから連続で2敗して9位という結果に終わりました。

 悔しさが半端なかったです。どうしても彼の負けには、悔しさと苛立ちを感じてしまいます。なぜなのでしょうか。ずっとわかりません。彼が練習に集中できるよう、私は自分のために時間を使うことを諦めているからでしょうか。こんな気持ちになるのは「やめたい」と何度も思うのですが、どうしてか変えることができません。

 夫が負けた2日目の夜――。〈あばだんご〉選手の試合を最後まで観戦していたら、もう他のタイトルの予選は全て終わっており、私はホテルの自分の部屋まで一人で戻りました。予選会場からホテルの部屋までは、建物の中を早歩きで15分くらいです。そこをゆっくりとぼとぼ歩きながら、「どうしてこのような感情になってしまい、それをやめることができないのか」と考えていました。

「別に負けたって次があるよ! また頑張ろうね!」みたいな優しい気持ちにすぐなれるといいのですが、そうなるまでに時間が掛かります。部屋の近くまで戻ったのですが、この感情のまま夫と会うのはまずいのでフードコートに寄り道をしました。

 そうして、古代エジプトのピラミッドを模したルクソール・ホテル(Luxor Hotel & Casino)の頂きを眺めながら、ぼーっと考えていました。15分くらい眺めていたところで、ふと「でもそれだけ感情的になれるってことは、それはそれでいいことなのでは?」と思うようになり、「逆に私が夫の試合に感情的になれなくなったら、それは終了の合図だな」と。それで納得。結果、「このままの自分でいいや!」となりました。

 夫には負担を掛けないようにしつつ、自分は自分のままで。それが、この世界最大の格闘ゲーム大会で獲得した私なりの成果でした。

 とまあ途中から自分語りになってしまいましたが、今回のEVOも非常に熱い大会となりました。年々、参加者も観客も増え続けているのが凄いです。中には終了となったり、参加者が減ったりしたタイトルもありましたが、全体を見ると規模は拡大しています。

 これからも格闘ゲームがなくなることなく、この盛り上がりが続くといいなと思います。そのために少しでも貢献できたらうれしいですね。 

 それではまた次回。

著者情報

プロゲーマー

百地裕子

ももち ゆうこ

1986年、兵庫県生まれ。中京大学体育学部卒業。2008年より対戦格闘ゲームを始め、国内大会でトップゲーマーに勝利して知名度を獲得。愛称は〈チョコブランカ〉。11年にプロゲーミングチーム「Evil Geniuses」(本拠地・アメリカ)からスカウトされ、日本人初の女性プロゲーマーとなる。17年には北米のプロゲーミングチーム「Echo Fox」に移籍。夫は同チームに所属するプロゲーマーの〈ももち〉こと百地祐輔。世界初の現役プロゲーマー夫婦として、15年に株式会社忍ismを設立。「ゲームと人を繋げる」をモットーに、世界で活躍できる後進の選手育成、ゲームコミュニティーを盛り上げるためのイベントの企画・運営に携わる。

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