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連載

ゲームセンターを卒業できない私

第20回

百地裕子(プロゲーマー)

 私は幼稚園児くらいの頃から家庭用コンピューターゲームが大好きでしたが、私のゲーム好きを飛躍的に加速させたのはゲームセンター(ゲーセン)でした。今回は私がゲーセンにハマっていったあたりのお話をしたいと思います。

プレーヤー名〈チョコ〉誕生の話

 私が「ストリートファイターⅣ」(カプコン)というビデオゲームをするために、ゲーセンに通い始めたのは2008年の冬のことです。当時は大学3年生だったので、大学の仲間たちと4〜6人でいつも一緒に行っていました。その頃よく通っていたのは愛知県長久手市にある「ゲームファンタジアン長久手店」。授業が終わってから、“ほぼ毎日”くらいのペースでみんなでゲーセンに行って、仲間内で誰が一番強いか競い合っていました。

 ゲーセンの格闘ゲームコーナーには、筐体(きょうたい)と呼ばれる大きなゲーム機が背中合わせに置かれています。

 

ゲームセンターで練習する百地裕子の後ろ姿

 当時、ゲーセンの「ストリートファイターⅣ」はインターネットを介しての対戦機能がなかったので、同じ店舗にいる人とのみ対戦ができました。知らない人が座って対戦相手を待っているところに、自分が100円を入れて「勝負だ!」と言わんばかりに「乱入」すれば対戦が始まります。プレーヤーは筐体をはさんで向かい合う形になるので、相手の顔はディスプレイに隠れて見えません。筐体の反対側まで行けば顔を見ることができますが、なんだか恥ずかしいのであまりそれはしません。

 対戦を始める際、自分のデータが登録されたカードを筐体に読み込ませてスタートすると、登録したプレーヤー名が画面のキャラクターの下に表示されるようになっています。私は飼っていたペットのうさぎ〈チョコ〉の名前でカードを作ったので、私が使うブランカの下には〈チョコ〉という登録名が表示されます。相手がデータカードを使用していれば、対戦相手の登録名も相手キャラクターの横に表示されます。

 また、強さの指標になる「バトルポイント」という点数が名前の下に表示されます。それを見れば、相手の人が大体どれくらいの強さなのか分かるようになっています。基本的に対戦で勝つとそのポイントが増えて、負けると減ります。勝ち数が少ないうちはポイントは増えやすくなっていますが、勝ち数を稼いで強さのレベルが上がるにつれ増えにくくなるので、いい具合に強さの指標になるのです。

 相手の顔や本名を知らなくとも、カードに登録された名前で「お、今日もこの人来てるな」と分かったり、初対戦の相手でもポイントを見れば「この人は猛者だな」と分かるようになっているので、コミュニケーションを取らなくともなんとなく同じゲーセンに来ている人のことを覚えていきます。

ゲームセンターで初めて話し掛ける

 ゲーセンに通い始めた頃は、基本的に仲間同士で対戦していたのですが、だんだん慣れてくると知らない人に乱入対戦を挑むようになっていきました。毎日のようにゲーセンに通っているうちに、同じように毎日来ている常連さんの一人とよく対戦するようになりましたが、なかなか言葉を交わす機会はありませんでした。対戦するようになってから1〜2週間くらい経って、やっと仲間の一人がその人に話し掛けました。

「対戦ありがとうございました! あの場面のあの攻撃が辛いんですけど、こっちはどう対策すればいいんでしょうねぇ?」などと“ゲームの攻略”について質問してみるというのが大体、“ゲームセンターで初めて話し掛ける時のきっかけあるある”です。

 まさにそのように話し掛けると、常連さんはとても優しく仲間に攻略ヒントを教えてくれていました。それがきっかけでその常連さんと私たちは仲良くなり、ゲーセンで会うと挨拶したり、雑談したりするようになりました。

 その常連さんの登録カードの名前は〈イプシロンJ〉さん。「どういう意味なんだろうな~?」というプレーヤー名の人には、“名前の由来“をきっかけにして話し掛けるのもあるあるですね。

 そのうち〈イプシロンJ〉さんの友達の〈さぼきのこ〉さんとも話すようになり、気が付けばお友達に。本名は知らないから、ゲーセンで会えばみんなプレーヤー名で呼び合います。「イプさん、さぼさんお疲れ様です~!」みたいな感じで呼んでいました。もちろん私も「チョコちゃん」と呼ばれていました。ゲーセン帰りの「みんなで晩ご飯食べて帰ろうか」なんて時や、電車に乗ってる時なんかに「チョコちゃんさ~」とかって話し掛けられるととても恥ずかしかったです。

 まさかずっと〈チョコ〉と呼ばれることになるとは思っていなくて……。なんとなくペットの名前で登録したら、本名よりもそっちで呼ばれることが多いようになってしまったので、あの時もう少し考えて名前決めればよかったかなぁなんて思います。今はもう慣れましたけどね。

ゲーセンで過ごす時間がどんどん濃く

 イプさんもさぼさんも、二人ともとても優しくていい人でした。対戦していても楽しかったので、私は仲間たちとゲーセンで過ごす時間がどんどん濃くなっていきました。そして気が付けば、私が通っていたゲームファンタジアン長久手店は夜になるとたくさん人が集まるようになり、仕事帰りのお兄さんたちと、大学生の私たちが毎晩対戦に明け暮れていました。

 毎日対戦していればみんながうまくなっていくもので、すると「あの人に勝ちたいからその対策をするぞ!」と、目標とする相手を倒すために知識を増やしたり戦い方を模索したりします。そうして「ついに勝った!」となれば、今度は目標としていた相手がリベンジのために対策をしてきます。そんな積み重ねで、常連全員が面白いように成長していきました。

 そうこうしていると「長久手のファンタジアンが夜盛り上がってて、強い人もいるらしいぞ」という噂がプレーヤーの間に伝わっていき、普段は別のゲーセンに通っている人が「力試しだ!」といった感じで遠征してくるようになりました。

 そうしていろんなプレーヤーさんと仲間になり、いろんな人のいろんなキャラクターとも対戦するようになりました。同じキャラクターでも使う人によって全然違う動きをしたりするので、そこが対戦ゲームの味わい深いところだなと思います。

 

名古屋時代のゲームセンターの仲間たち

ゲーセンから卒業していく人たち

 仲間がどんどん増え、趣味で大会を運営し始めて、100人近くの人たちが小さなゲーセンの大会に各地から参加しに来てくれて……。とても充実したゲーセンライフを送っていたのですが、楽しい日々はいつまでも続くものではありません。

 大学を卒業し、皆それぞれ地元に帰って就職したので、一緒にゲーセンに行っていた大学の仲間はバラバラになりました。私も就職して愛知県の三河地方にある岡崎市に住むようになりました。長久手のファンタジアンは車で1時間以上掛かる距離になってしまい、仕事も忙しくなかなか行けなくなりました。

 大抵の人が、就職とか結婚といった環境の変化がきっかけでゲーセンから卒業していきます。私の大学の仲間たちもそうでした。地に足を付けて、しっかりと自立して生きていくために、みんな一生懸命に仕事を頑張っていました。

 それに一度ゲームセンターから離れると、なかなか戻りづらくなります。なぜかというとゲーム自体が変化していくからです。最近の対戦型ゲームって、どんどんバージョンアップしていくんですよね。キャラクターの性能が変わるのはもちろん、ルールや基本的なシステムが大幅に変更されることもあります。インターネットを使って簡単にアップデートできる時代になったことで、数カ月に1回バージョンアップが入り、2〜3年で大きくゲーム性が変わることも。

 なので一度離れると、ゲームの変化についていけなくなるんですよね。それに、自分が好きでやっていたゲームがなくなったりします。逆に言えば、バージョンアップがあるおかげでゲーセンから卒業していける――という人もいるんですけどね。

 私はそれでも卒業できなかったので、就職した後も結局、新しく名古屋のゲーセンに居場所を見つけて通うようになり、ついには仕事の方をやめてしまいましたけれど。たまに昔の仲間たちに会って、仕事の近況とか、子どもの成長ぶりとかを聞くと、とてもうれしくなります。

 ゲームのバージョンアップごとに仲間が卒業していくけれど、新しい仲間もできたりして、なんだかんだでゲーセン通いを始めて約10年。通り過ぎていく人たちを眺めていると、自分だけが立ち止まっているような感覚になりますが、今でも私を応援してくれている昔の仲間たちがいるので、まだまだ頑張らなきゃな! と、最近一人でふらっと立ち寄った秋葉原のゲーセンで思い返していました。

 さてさて、今回は私がプロゲーマーになる前のゲームセンターでのお話をしてみました。ではまた!

著者情報

プロゲーマー

百地裕子

ももち ゆうこ

1986年、兵庫県生まれ。中京大学体育学部卒業。2008年より対戦格闘ゲームを始め、国内大会でトップゲーマーに勝利して知名度を獲得。愛称は〈チョコブランカ〉。11年にプロゲーミングチーム「Evil Geniuses」(本拠地・アメリカ)からスカウトされ、日本人初の女性プロゲーマーとなる。17年には北米のプロゲーミングチーム「Echo Fox」に移籍。夫は同チームに所属するプロゲーマーの〈ももち〉こと百地祐輔。世界初の現役プロゲーマー夫婦として、15年に株式会社忍ismを設立。「ゲームと人を繋げる」をモットーに、世界で活躍できる後進の選手育成、ゲームコミュニティーを盛り上げるためのイベントの企画・運営に携わる。

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