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連載

世界最大の格ゲー大会に行ってきた!

第1回

百地裕子(プロゲーマー)

Evolution 2017とは?

 こんにちは、〈チョコブランカ〉です。
 私は「ストリートファイター」という格闘ゲームをはじめ、さまざまなジャンルのゲームに関する活動をしているプロゲーマーです。スポンサーチームに所属して国内外の大会に出場するほか、新作ゲームタイトルのプロモーション、ゲームの楽しさや魅力を伝えるイベントの企画・運営、未来を担う若手の育成などを行うことが主な仕事です。
 連載第1回目は、2017年7月14~16日(現地時間)にアメリカのラスベガスで開催されたゲーム大会「Evolution Championship Series(EVO) 2017」をリポートしたいと思います。EVOについては“世界最大規模の格闘ゲーム大会”として日本のインターネットニュースなどでも紹介されているので、名前ぐらいはご存じの人がいるかもしれません。今大会には63カ国から約6800人、日本からも300人を超す選手が各タイトルにエントリーしました。
 EVOは1996年から毎年開催されている大会ですが、とにかくアメリカでは複数のテレビ局が決勝戦を中継したり、「ストリートファイターV」というタイトルだけで数千人がエントリーするほどの熱狂ぶり。優勝者には文字通り、「世界最強格闘ゲーマー」の称号が与えられます。ちなみに私がプレーしている「ストリートファイターV」はEVOの中でも最大のエントリー数を誇る人気タイトルで、他には「大乱闘スマッシュブラザーズDX」「大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U」「鉄拳7」「インジャスティス 2」「ギルティギア Xrd REV 2」「アルティメット マーベル VS. カプコン 3」「ブレイブルー セントラルフィクション」「ザ・キングオブファイターズ XIV」などのタイトルがあります。

小さなゲームイベントから出発

 このように今日では世界中が注目するEVOも、もともとはアメリカの格闘ゲーム愛好団体が主催するゲームイベントで、スタート時には参加者数40人、観客も数百人という規模でした。やがてインターネットやテレビを通じて知名度が上がると、視聴率を目当てにスポンサーが集まり、放映権が売れるようになります。参加費以外でも多くの利益が上がってビジネスが生まれ、現在のような巨大な格闘ゲームイベントに成長し、アメリカのeスポーツの発展を支えたのだと思われます。
 eスポーツには、レーシングゲーム、サッカーなどのスポーツゲーム、パズルゲーム、トレーディングカードゲームなど、格闘ゲーム以外にもさまざまな競技種目があり、試合形式も1対1、チーム対抗など多様です。世界的な大きなくくりで見ると、格闘ゲームは他の競技種目に比べてニッチな存在になってしまいます。しかし、それを忘れてしまうほどの熱量と、多くの参加者(選手や観客、スタッフを含め)を、この世界最大規模の格闘ゲームイベントであるEVOで体感することができます。
 まだ日本ではあまり情報が流れておらず、語られていないことも多いのですが、冒頭にも書いた通りEVOは「お祭り」的な要素も多分に持っていて、単に世界一のゲーマーを決める場というだけではありません。年に一度、世界中からゲームファンが集まり、好きなタイトルのトーナメントにエントリーします。参加費は会場代を含めてプロ・アマ問わず1人約1万円で、その一部が勝者の賞金に上乗せされるというシステムです。エントリー数が多ければ多いほど、優勝賞金がアップします。
 ですから参加者はプレーヤーとしての腕前に関係なく、お祭りを盛り上げる気分で、進んで参加費を払ってトーナメントに参加します。今大会の「ストリートファイターV」の優勝賞金は約3万6000ドル(約400万円)、全種目を通じての賞金総額は約26万ドル(約2900万円)に達しました。

お祭り気分の参加者も多数

 またEVOの参加者の多くは「日頃、純粋にゲームを“趣味として”楽しんでいる人々」なので、彼らのお目当ては当然ながらトーナメントでの勝利だけではありません。観光地として有名なラスベガスですから、ホテルは豪華だし、プールはもちろん、ショッピング、カジノなどのアミューズメント施設も充実しています。さらに会場内には、ゲーム関連グッズメーカーや、ゲームファンのコミュニティーがブースを出展していて、日本のコミックマーケット(コミケ)のようにオリジナル物販のコーナーもあります。それらを目当てに参加する人や、ラスベガス観光を兼ねて……といった人も多くいます。まさしく「祭典」ですね。
 日本からラスベガスへは飛行機で約13時間。マッカラン国際空港に到着したら、タクシーで宿泊先でありEVO 2017の会場でもあるマンダレイ・ベイホテル(Mandalay Bay Resort and Casino)へ。そうしてホテルに到着したらチェックインして一旦休憩し、翌日からの大会に備えます。
「ストリートファイターV」に関していえば、3日間かけてトーナメントが行われます。最初の2日間で予選を行い、最終日の本戦へと進む8人を決めます。今回、「ストリートファイターV」部門にエントリーしたのは総勢2625人。そこから最終日に残れるのはたった8人です。
 1日目は「プール」と呼ばれる予選を通過するために戦います。プールはプロもアマチュアも、上級者も初心者も女性も男性もごちゃまぜで戦います。ルールはダブルイリミネーションといって、2敗した時点で敗退となる方式なので、敗退するまで全力で戦い抜きます。大会によっては、一度でも負けたら敗退となるシングルイリミネーションを採用しているところもあります。

ヒーローが生まれる大会

 さてこのEVOですが、私の夫であり、同じ北米のプロチーム「エコーフォックス(Echo Fox)」に所属する〈ももち〉も過去に優勝した経験があります。今回の17年大会も、私たちのチームメイトであるプロゲーマーの〈ときど〉選手が、「ストリートファイターV」部門で劇的な優勝を飾り、世界一の栄誉を獲得して日本でもニュースになりました。
 東京大学卒のプロゲーマーとしても有名になった〈ときど〉選手は、圧倒的な反応速度と精確な入力で今シーズンを独走するアメリカの若き絶対王者〈Punk〉選手に前日の試合で負けて、ルーザーズトーナメント(敗者復活戦)に落とされていました。しかし彼はそこから日本人選手との接戦を勝ち上がり、再び決勝で〈Punk〉選手と対戦。1試合目をセットカウント3-1で奪い、さらに2試合目も3-0で圧倒し勝利したのです。
 絶対王者を相手に逆転勝利することがどれだけ凄いことか、多くの人が手に汗を握って応援していたと思います。結果的に〈ときど〉選手の圧勝となった決勝戦には、私も会場と一体になって大興奮しました。
 ここ数年のEVOは、「何かしらの大きなドラマが生まれる場」「ヒーローが生まれる場」という役割も果たしている気がします。そしてそのドラマを生んでいるのは間違いなく、お祭りを盛り上げるために参加した人たちや、ラスベガス観光を兼ねて遊びに来たゲーム好きな観客たちです。
 私たちプロゲーマーが奇跡的なパフォーマンスを発揮し、大会をより大きく育てていくためには、彼らのような「ゲーム好き」な人たちに興味を持ってもらい、一緒に盛り上げていくことが重要なのだなと、海外で大規模なゲームイベントを経験するたびに感じます。このようにEVOは単なる勝ち負けだけの大会・イベントではありません。多くの参加者にとっては、自分もコミュニティーの一員として「楽しむ」ための場であり、格闘ゲームを通しての繋がり(一体感)をワールドワイドで感じ、いい意味でバカ騒ぎのできる場なのです。

選手たちの素顔に親近感が

 今年のEVOを振り返ると、私は夫の〈ももち〉と一緒にいる時間が一番長かった気がします。まあ基本的に同じEcho Foxのチームメイトなので、どの海外大会でも夫といる時間が一番長いのですが、今年は特に所属チームのスポンサーが主催するイベントへの出演や、Twitchというゲーム配信サイトでスマホを駆使して日本に現地の様子をライブ配信するなど、多くの人たちと現地の熱量を共有させてもらいました。結果として、何千人もの参加者の中から日本で人気がある選手の試合を、現地からのスマホ配信によって日本の視聴者のみなさんにライブで伝えることができました。また、現地で一緒になった海外の選手たちとのコミュニケーションや、会場の様子なども届けました。
 例えば先ほど登場したアメリカの絶対王者、19歳という若手プレーヤーの〈Punk〉選手。彼はまだ来日したことがないし、日本のメディアに取り上げられることも少ないので、どんな人物なのかわかりませんでした。しかし、私と〈ももち〉がスマホで生放送をしていたら近寄ってきて、「僕の好きなプレーヤーの一人、〈ももち〉を見つけた! 一緒に写真を撮ってよ」と声をかけてくれました。
 実は試合中はとても真剣な顔をしているので、怖そうな人物に見えていました。でも勝負の外ではとても穏やかで、少しシャイで、私自身も彼の印象が変わりました。「日本に行ってみたい。僕は日本が好きなので日本の女性とお付き合いしたいんだ!」ということもおどけながら話してくれ、思わぬ内面を垣間見ることで親近感がわきました。
 このように選手たちの素顔を知ることも「この選手も応援したい!」という気持ちになるきっかけになりますから、自分たちの現地でのアクションを通じて「選手=人」の魅力を伝えることも大切だなぁと思いました。

神の手を持つジェンガマスター

著者情報

プロゲーマー

百地裕子

ももち ゆうこ

1986年、兵庫県生まれ。中京大学体育学部卒業。2008年より対戦格闘ゲームを始め、国内大会でトップゲーマーに勝利して知名度を獲得。愛称は〈チョコブランカ〉。11年にプロゲーミングチーム「Evil Geniuses」(本拠地・アメリカ)からスカウトされ、日本人初の女性プロゲーマーとなる。17年には北米のプロゲーミングチーム「Echo Fox」に移籍。夫は同チームに所属するプロゲーマーの〈ももち〉こと百地祐輔。世界初の現役プロゲーマー夫婦として、15年に株式会社忍ismを設立。「ゲームと人を繋げる」をモットーに、世界で活躍できる後進の選手育成、ゲームコミュニティーを盛り上げるためのイベントの企画・運営に携わる。

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