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連載

“電気トンボ” 〜コシアキトンボ

第109回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 木々の葉が色濃くなってきました。光と影が織りなすコントラストが、子どもの頃の夏休みのワクワク感を蘇らせてくれます。数十年前までは、田園には小さなため池があって、子どもたちの遊び場になっていました。しかし残念なことに、琵琶湖の周辺を見渡しても、今ではもうそんなため池に出会うことはありません。
 アトリエの近くに、里山再生をしている場所があります。生きものが集まる農地を取り戻すべく企業が応援してくれているのが「めいすいの里山」です。ここで取り戻したかった環境の一つが、子どもたちが遊べる湿地です。めいすいの里山は谷津田になっていて、雨水などが山水となって流れ込み、いろいろな条件が満たされて湿地の再生はうまくいきました。プロジェクト開始から10年近く経過して、ようやく自然が好きな子どもたちにとって、夢のような楽園が出来上がりました。

緑濃い初夏のめいすいの里山。(撮影:今森元希)

 ここの湿地では何種類ものトンボを見かけますが、夏の初めに多いのがコシアキトンボです。このトンボの特徴は、成熟したオスの腹部にある白い帯状の文様。複眼も含めて全身黒色であるばかりか、はねの付け根も黒いので、真っ白な部分が際立って、まるで光を放っているように見えます。私の祖母は「電気トンボ」と呼んでいましたが、よいニックネームです。
 コシアキトンボのオスは、湿地やため池の中程を飛び回っています。かなり暑い日でもひがな一日元気よく巡回しているので、いったいいつ休憩するのだろうと心配になってきます。

オスは、純白の帯文様をもっている。(撮影:今森元希)

 コシアキトンボは「オーレリアンの庭」にもよくやって来ます。小さなため池のあるガーデンエリアではオスが飛んでいるのですが、建物に近い木立に囲まれた狭い空間では、メスが同じところをグルグルと回っています。オスの縄張りのための飛行とは意味が違っているようです。根気よく観察していると、不意に木立の中に入り込み、枝に翅を休めました。メスはオスと違って帯文様は薄黄色で、そこに黒い帯が一本入っています。

小枝にとまったコシアキトンボのメス。(撮影:今森元希)

 子どもの頃、この不思議なトンボを採りたいと、虫網を握ってどれほど粘ったことでしょう。ギンヤンマの採集の時にやる、トンボのお尻の方から網を振る戦術は、コシアキトンボには通用しませんでした。人の気配をあっさりと察知して、身を翻し危険を回避してしまうのです。どうやら子どもの運動神経より上手うわてをいっていたようです。
 観察会などのイベントの時、コシアキトンボを狙って、真剣な表情で虫網を構えている子どもたちの顔を見ていると、ほのぼのとしてうれしくなります。

巡回飛翔するコシアキトンボ。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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