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連載

ホバリング飛行する初夏のお客さん 〜セスジスズメ

第108回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 雨の日が多く、蒸し暑い日が続きます。庭では、早くも夏を代表する花、ブッドレアが咲きかけています。
 こんな頃、太陽が比叡山の峰に隠れるのを待って涼んでいると、蜜を求めて小忙しいお客さんがやって来ます。花の前でホバリング飛行をしながら、長い口吻(こうふん)を伸ばしているセスジスズメです。スズメガの仲間は、がっしりとした体にジェット機のような翅(はね)がついている大型の蛾です。「オーレリアンの庭」にも数種類がやって来ますが、なかでも枯れ葉色の地にスマートな筋模様をもったセスジスズメは、一番よく見かけます。

ブッドレアの花にやって来たセスジスズメ。(撮影:今森元希)

 飛翔はとてもせっかちなので、撮影するときはなかなかピントが合いません。木立の下にある花などには、比較的明るい時間帯にもやって来ますが、基本的な活動時間は闇が迫ってからです。
 写真家になったばかりの頃、この蛾を撮影するのにずいぶん苦労した思い出があります。ストロボの付いたカメラを持ちながら、余った指に小型の懐中電灯を挟んで、照明を照らして狙うのですが、ホバリングによって空中で停止しているとはいえ、花の周りをグルグルと移動するので、シャッターチャンスがほとんどないのです。成功したと思っても、現像された写真が全部ピンぼけで落胆したことがあります。

セスジスズメの終齢幼虫はとても巨大だ。(撮影:今森元希)

 セスジスズメをよく見かけるのは、幼虫の食草のレパートリーが幅広いからです。至る所に自生しているヤブガラシをよく食べますし、旧家の庭などに植えられている園芸種のホウセンカも大好物。それから、畑で栽培されているサトイモの葉も食べます。終齢幼虫は体長が9センチメートルほどにもなる巨大さなので、食欲はとても旺盛。数匹の幼虫がいただけでも、畑に打撃を与えてしまいます。サツマイモの葉を食べることもあり、農家の人にはとても嫌われています。
 幼虫の姿はイモムシ型で、お尻の先にヒゲのような突起をもっています。幼虫が歩くたびに突起が上下に動くので、ちょっと怖いですが、柔らかくて触れても大丈夫です。そして、最大の特徴は、体に沿って並ぶ2列の目玉模様。これは圧巻です。特に頭に近い部分にある2対は、鳥の目のようで瞬きをしそうなくらいリアルです。幼虫に少し触れると、体を硬直させて、その2対の目玉模様が目立つように上半身を膨らませます。この瞬間に立ち会うと、虫が嫌いな人は「ヒャー!」と叫び、好きな人は「かわいい~!」といって顔を近づけます。

幼虫は、目玉模様が美しい。(撮影:今森元希)

 私は、スズメガの成虫は、複眼が大きくて、なんとなく動物的な雰囲気を持っているところが大好きです。この季節、薄暗くなってくると、この愛嬌者がまだやって来ないか、咲いている花についつい目がいってしまいます。

夏の花が咲き始めた初夏のオーレリアンの庭。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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