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連載

黄色い天使のような花 〜マンサク

第105回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 気温の上昇とともに大気が膨らんできました。私のアトリエのアプローチは、雑木林の縁に沿って続いていますが、南向きなのでお天気が良い日はキタテハやヒオドシチョウがかすれた翅(はね)をまとって枯れ草の上にとまっていることがあります。越冬から目覚めて日向ぼっこをしているのですが、なかなか長閑(のどか)な風景です。
 雑木林の梢(こずえ)を見上げると、ようやく新芽が膨らんできた木々の中で、いち早く花を咲かせている木があります。それはマンサクです。「まず咲く」がマンサクという名前の由来として知られていますが、繊細な花をびっしりと咲かせるこの木は、「満作」のイメージの方がぴったりくるのではと私は思っています。

満開になったマンサクの花。(撮影:今森元希)

 マンサクは、滋賀県では琵琶湖の北部地方の湖に面していない場所に自生しています。可憐な花なので、アトリエにも欲しくなり今までに2本植栽しました。年月が経ち、背丈が3メートルくらいに成長したのですが、1本は枯れてしまいました。どうやら近年の真夏の酷暑に耐えられなかったようです。
 マンサクの花を見るために私が訪れるのは、この連載でもたびたび登場する比良山地の(ひらさんち)の西側にある朽木村(くつきむら)(現・高島市朽木)の渓谷と、高島市にある「萌木(もえぎ)の国」の近くの雑木林です。ここは、樹高5メートルくらいのマンサクが谷間に枝を広げて見事な花を咲かせます。遠くからだと新芽が吹き出ている枝のようにしか見えないのですが、近づくと、花の存在があらわになります。そんな奥ゆかしさに何故かひかれてしまうのです。

マンサクの花に出会う早春の雑木林。(撮影:今森元希)

 私の好きな蝶に、ウラクロシジミがいます。この蝶については、別の機会に詳しく述べることにしますが、比良山地の頂上付近のブナの森近くにマンサクが生い茂っている場所があり、初夏の頃、夕刻に飛翔するこの珍蝶を汗だくになりながら追いかけていたのを思い出します。この場所は、花の時期に訪れていませんが、ぜひ行ってみたいです。
 また、私はマンサクの切り絵にも挑戦しています。マンサクの特徴は、細長く伸びた黄色い花びらなのですが、それが縮緬(ちりめん)のように不規則な形をもっていて、花びらの付け根に印象的な臙脂色(えんじいろ)の萼片(がくへん)があります。とても複雑な花が、枝いっぱいに付いているので、制作にはたいへん苦労しました。この作品でマンサクにとまってもらったのはヤマガラです。数年前、実際にシジュウカラと一緒にヤマガラが混群でマンサクを訪れていたことを思い起こして下絵を描いてみました。
 春の訪れを実感させてくれるマンサク。今年も、黄色い天使が舞い降りてくるような姿で、私を迎えてくれました。

マンサクの花は、とても複雑な形状をしている。(撮影:今森元希)

マンサクとヤマガラを題材にした切り絵作品(部分)。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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