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連載

小さな森 〜ホソバオキナゴケ

第104回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

「めいすいの里山」から眺める冬の風景はとてもきれいです。ビューポイントは2つあって、1つは仰木(おおぎ)の棚田と琵琶湖が臨める場所。もう1つは、落葉したコナラ越しに比良山地(ひらさんち)が見える小山のピークです。晴れていたら、どちらも見たくなるので息を切らしながら山道を登ることになります。

めいすいの里山から眺める比良山地。(撮影:今森元希)

 この時期の雑木林は一面セピア色なのですが、スギやヒノキの林に足を踏み入れると、意外なものに出くわします。夏の間は見逃していた植物で、なんと寒さの中でも青々と葉を茂らせているのです。その名前は「ホソバオキナゴケ」。コケ植物にはたくさんの種類がありますが、中でもこのコケは最も知られている種類でしょう。よく盆栽などの幹元に濃い緑色のコケが敷かれていますが、ほとんどがこのコケです。ヤマゴケの愛称で呼ばれていてファンが多く、栽培している人もいます。
 ホソバオキナゴケは、「光の田園」のあちこちで見られ、「オーレリアンの丘」にあるヒノキ林でもたくさん自生しています。
 ふかふかした林内を散策していると気づくのですが、ホソバオキナゴケが密生している場所は木々が切り開かれて、適度な光が差し込んでいます。どうやら環境に好みがあるようです。おそらく、針葉樹林の場合は、間伐されていれば林内の奥まで広がってゆくのだと思われます。

ヒノキ林に自生するホソバオキナゴケ。(撮影:今森元希)

 ホソバオキナゴケは、コモコモと盛り上がりながら散らばっているのが特徴です。その趣は、まるで日本庭園のミニチュアを眺めているようです。乾燥すると葉は白っぽくなりますが、雨が降ると緑色が復活します。
 スギやヒノキの林床には、落葉広葉樹に比べるとあまり他の植物が見られません。シダやコケの仲間以外は、鳥や風によって運ばれたヤブツバキ、ニワトコ、クロモジなどの幼木もあるのですが、どれもヒョロヒョロとしていて花芽もつかない様子です。これは、針葉樹が冬に落葉せず、太陽の光が届かないためですが、針葉樹の葉には昆虫や菌などに対して抗体をもつ成分が含まれており、微生物を分解する速度が遅く、土壌の栄養が乏しくなることも原因の1つだといわれています。そのような他の植物が生きづらい環境でのびのびと繁殖しているのがホソバオキナゴケなのです。

小さな葉は、スギの葉のように尖っている。(撮影:今森元希)

 このコケの1つの盛り上がりをそっとすくい取って持ち帰り、小さな鉢に生けてみました。すると、外は小雪がチラついているのに、小さな森が誕生しました。水を与えると蘇る、その姿が目の前で確認できます。ヒノキ林の中では気づかなかった、繊細な葉の息遣いが聞こえてきそうです。
 足元のささいな自然に目を向けられるのも、冬ならではの醍醐味かもしれません。

鉢に生けたら小さな森が誕生した。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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