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連載

住み処は石垣 〜ニホントカゲ

第102回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 比良山地(ひらさんち)の峰が白くなりました。今年もいよいよ冬の到来です。この頃の田んぼは、ストライプ模様が入ってとてもきれいです。几帳面な農家は、年内に田起こしをして畝(うね)を作ります。もう、来春の田植えの準備が始まっているのです。

師走を迎えた仰木の棚田。(撮影:今森元希)

 冬の初めの小春日和は、石垣が気になります。石の上は太陽熱で温まっているのでしょうか、いろいろな生きものが日向ぼっこをしています。キタテハ、ルリタテハ、アカタテハなどの成虫で越冬する蝶、しぶとく生き残っているアキアカネやハナアブの仲間たちも休んでいます。
 そんな中で、私が一番気になるのがニホントカゲです。ニホントカゲは、私が子どもの頃は中庭の石灯籠によくいました。一年を通して見られるのですが、冬の始まりのこの時期が、石にペッタリと張りついてじっとしているので観察がしやすいのです。オスは、幼体の時は尾のあたりが青緑色に光っています。メスは、成体になるとオスに比べて体格がよく見えます。ゆっくり近づくと、テカテカしている鱗が立体的なのがよくわかります。顔は恐竜そのものです。

アトリエの石垣に棲むニホントカゲ。(撮影:今森元希)

 一度、トカゲを捕まえようと地面に押さえ込んだことがありました。すると、尾がちぎれて、尾だけで元気よくピンピンと跳ねているではありませんか。その体験以後、怖くてトカゲに触れなくなったのを覚えています。それからは、もっぱら見るだけになりましたが、機敏な動作と鋭い顔を見ていると憎めません。

ニホントカゲのメスは、やや大きくて茶色っぽい。(撮影:今森元希)

 ところで、ニホントカゲとよく似た姿の爬虫類にニホンカナヘビがいますが別の種類です。ニホンカナヘビは枯れ草の上にいることが多く、人家周辺より、田んぼの土手などで見かけます。鱗がカサカサしていて、ニホントカゲのように尻尾の自切行為はあまりないので、人懐っこく感じられます。ニホンカナヘビは木を駆け上がったり、草の細い茎に登ったりすることもできて、ニホントカゲに比べて生活範囲が広いように思います。
 一方、ニホントカゲは、石垣専門。私のアトリエでも石積みのあるところにしかいません。ニホントカゲが一番多いのは、何と言っても旧家エリアにある古い石垣です。私のいる大津市仰木(おおぎ)地区は石垣が多く、300年以上前に「穴太衆(あのうしゅう)」と呼ばれる石工集団が作ったとされています。石を積んだだけの垣根は隙間が多く、ニホントカゲの隠れ家に最適です。半ば苔むした石垣は、とても風情があり残ってほしいのですが、近年は、家が新築されると石垣がコンクリートで固められます。
 伝統的な風景が消えてゆくとともに、ニホントカゲも少しずつ棲みにくくなっているようです。

ニホントカゲはこんな石積みのある環境も大好き。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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