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連載

理想的な水環境 〜かばた

第98回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 ジリジリと照りつける太陽。光が肌に当たると痛く感じるほどです。私が子どもの頃は、真夏でも帽子をかぶらず外遊びをしていたくらいですが、その頃に比べると、本当に暑さの質が変わりました。
 そんな季節に頭を過るのは、「かばた」の風景です。「かばた」というのは、湧き水を利用する場所のことです。湧き水は地下水と同じく18度くらいの水温なので、この時期はひんやりしていてうらやましい限りです。

湧き水が出ている「かばた」の井戸。(撮影:今森元希)

 滋賀県高島市新旭町の針江という集落では、昔から湧き水を利用する暮らしが営まれてきました。私が最初に「かばた」に出会ったのは、30年近く前のこと。町長さんの依頼で、針江という小さな集落を撮影することになったのがきっかけでした。町長さんは、開口一番に「ここは何もないところです」と言われました。でも、町内を案内していただいている時に、私は素晴らしいものを見つけました。それは、コンコンと清水が湧き出る井戸でした。この集落では、井戸のある場所は 「かばた」と呼ばれ、ほとばしる水は、「生水(しょうず)」と呼ばれていました。
 「かばた」とは、水が自噴しそうな場所に敷地を設け、母屋とは別に、井戸がある所は東屋(あずまや)で覆い、そこで日常生活の水仕事をすべて行うようにしたものです。

井戸を利用しやすいように足場が設けてある。(撮影:今森元希)

 「かばた」の中で湧き上がった水は、洗い物などに使われた後、水路を伝って大きな川に流れ込みます。水路には、それぞれの家々の排水が流れ込むことになります。これは、けっこうな量になるはずですが、米の研ぎ汁やおかずの食べ残しなどの有機物は、魚介類の餌になったりバクテリアによって分解されたりして、水路から大きな川を経過する過程で、汚染水ではなくなっていきます。山から流れてきた水が地中を通って湧き水として噴出し、それを人が利用して琵琶湖に帰る。これは、理想的な水の循環です。

人家の周りにも細い水路がたくさんある。(撮影:今森元希)

 「かばた」の暮らしが知られるようになってから、この町にたくさんの人が訪れるようになりました。そこで、針江の人たちは委員会を結成し、「かばた」を案内するエコツアーを始めました。現在は、針江生水の郷委員会に申し込むとガイド付きで「かばた」を見学できます。
 地元に当たり前のようにあった自然を人々に伝えながら、それが町おこしにつながるという、お手本になるような取り組みです。運営にはいろいろとご苦労はあると思いますが、頑張ってほしいものです。

美しい水が流れる町の水路。一番右側が私。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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