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連載

薪炭林から萌木の国へ

第90回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 先日、比良山地(ひらさんち)に初冠雪がありました。粉砂糖をかけたような峰を眺めていると、今年もいよいよ冬がやってきたなと感じます。
 琵琶湖の北西にある「萌木(もえぎ)の国」のことはこれまでにも何度か触れてきましたが、今回は改めて愛すべきこの雑木林について少しお話ししたいと思います。

雑木林の小枝に止まる、可愛い姿のエナガ。(撮影:今森元希)

 萌木の国との出合いは、今から30年ほど前に遡ります。その頃の私は、里山の風景や生物を撮影するために薪炭林(しんたんりん)に足繁く通っていました。薪炭林というのは、薪(まき)や炭に利用されてきた林のことです。さすがに30年前だと生活の中で薪や炭を使用している人は大変少なくなっていましたので、日本各地の雑木林は放置されている所がとても多い状態でした。

 でも、萌木の国の周辺はシイタケ栽培が盛んで、雑木林の木々が定期的に伐採されては萌芽(ほうが)更新をし、伐採した木をシイタケ栽培に利用するという循環がまだまだ受け継がれていたのです。当然、里山林としての生態系が極めて正常に維持されていたことは言うまでもありません。

伐採されたばかりの木々。(撮影:今森元希)

 そのエリアの中にあった、私が特に気に入っている一角が造成されることになりました。そこには「やまおやじ」と私が名づけたクヌギの古木がたくさん生えていました。私はここの地主をよく知っていたので、なんとか残してくれないかと頼みましたが、なかなか了解はもらえず、結局、最善の方法は私が購入するしかないことがわかりました。広さ2ヘクタールほどの土地で、たいした金額ではないのですが、当時の私にとってはそれなりの覚悟が必要でした。
 それから間もなくして、私は半ば放置されたその雑木林を購入し管理を始めました。この土地の形状は長方形で、江戸時代に、水争いが絶えなかった二つの在所の中間に土塁を築いてため池をつくろうとした場所です。このため池づくりは手掘り工事で実行されたようですが水が溜まらず、2年に及ぶ血のにじむような努力は報われませんでした。そして、このアイデアを提案した庄屋の主は、村から夜逃げしたと伝えられています。その後、ため池跡は、茶畑に利用されたそうですが、いつしか雑木林になってしまったようです。
 この土塁に囲まれた雑木林を、私は「萌木の国」と名づけました。最初は家族で管理を始めましたが、今では親しい仲間が集まってみんなで手入れを楽しんでいます。そんな萌木の国も前の冬に三度目の大伐採を行いました。

伐採された「やまおやじ」が点在する萌木の国。(撮影:今森元希)

 新たに生まれ変わり、産声をあげたばかりの雑木林は、何とも清々しい風景です。「やまおやじ」から伸びた小枝にエナガの群れがやってきてピチピチと舌を鳴らしています。早くも、来春の美しい新緑が待ち遠しいこの頃です。

新しい枝を伸ばす「やまおやじ」。(撮影:今森元希)

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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