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連載

ハート虫 〜エサキモンキツノカメムシ 

第87回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 猛暑が少し和らいだ頃から、田んぼが急に黄色くなり始めました。稲穂が重く垂れ下がっているので、今年も豊作ではないでしょうか。イネは本当に暑さに強い植物だと感服します。「オーレリアンの丘」では、クヌギの葉や地上の草たちはまだまだ青々としていて、夏模様が抜けきらない様子です。

田んぼが色づいたオーレリアンの丘。(撮影:今森元希)

 そうした中で、秋の空気を感じ取っているのはタラノキではないでしょうか。木の先端からフサフサとした花の穂が膨らみ始めています。近づいて人の背丈以上に大きく育った葉の表や裏を観察すると、体長1センチ位の小さなカメムシに出会うことがあります。背中に黄色いハート文様をもったエサキモンキツノカメムシです。これは、神様のいたずらではないでしょうか。こんなおしゃれな昆虫が里山にいるなんて驚きです。私が子供の頃は、ハート虫と呼んでいたのを覚えています。

ハート文様をもつエサキモンキツノカメムシ。(撮影:今森元希)

 エサキモンキツノカメムシは、日本全国の里山環境に見られ、決して珍しい昆虫ではないのですが、いざ発見しようと探し回ってもなかなか見つかりません。その出合いは、いつも偶然やってきます。カメムシというと、大発生して農作物を台無しにしてしまうイメージがありますが、このカメムシは群れでいるところを見ることはなく、とてもおしとやかです。
 この季節になると、オーレリアンの丘のタラノキを見上げて注意深く観察するようにしています。エサキモンキツノカメムシはタラの葉の汁を吸うだけでなく、たぶん、花の後にできる果実を楽しみにしているのかもしれません。

エサキモンキツノカメムシが見られるオーレリアンの丘のタラノキ。(撮影:今森元希)

 ところで、このカメムシは葉の裏に固めて産卵します。メスは卵塊の上に覆いかぶさるようにして保護する習性があり、卵から幼虫が孵化した後も離れません。ハート文様の姿にふさわしく愛情たっぷりの性質をもっているのが微笑ましい限りです。
 秋に出合った成虫は、晩秋に風当たりの少ない落ち葉の下に潜り込んで越冬します。エノキの幹の根元に積もった落ち葉の裏に隠れているオオムラサキやゴマダラチョウの幼虫を観察している時に、脚を縮めて眠っているこのカメムシによく出合います。
 木枯らしの吹く寒々とした風景の中でハート文様を見かけると、なんだか心が温まります。

タラノキの花が咲き始めた。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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