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連載

陶磁器のように美しいトンボ  〜コヤマトンボ

第84回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 梅雨の季節がやってきました。しとしと降る雨は、広がったばかりの木々の葉を一段と美しく見せてくれます。深い緑色の奥行きは、この時期だけに現れるものだと思います。
 私が管理している湖北地方の雑木林「萌木の国」では、冬に伐採されたばかりのクヌギの古木、通称「やまおやじ」に枝葉が伸びて、貫禄が出てきました。小柄なやまおやじも、帽子を被ったような格好になって私の背丈ほどに成長しています。

大きくなった「萌木の国」にある「やまおやじ」。(撮影:今森元希)

 このころ、近くを流れる川では、コヤマトンボが姿を見せ始めます。コヤマトンボは、オオヤマトンボより一回り小型のトンボです。私の住んでいる地方だと、オオヤマトンボはヤゴの時期に水深のある琵琶湖で暮らしているのに対し、コヤマトンボは川の中流から上流にかけて暮らしています。川にはオニヤンマもたくさんいますが、コヤマトンボの方がより小型なのと、飛んでいる時にはやや黒っぽく見えるので区別できます。

コヤマトンボが棲む川。(撮影:今森元希)

 コヤマトンボの魅力は、何と言っても胸部が青緑色の金属光沢を放っていることです。こんな色の陶磁器がありますが、それに負けないくらい美しく、採集して間近に眺めるとうっとりとしてしまいます。
 それから、複眼が大きく輝いていることも特徴です。コヤマトンボは一対の複眼がしっかりくっついていて、ヘルメットを被っているように目が顔を覆っています。まさに仮面ライダーのようで、昆虫の好きな子どもたちが憧れるのも無理はありません。

コヤマトンボはこんなに美しい。(撮影:今森元希)

 コヤマトンボのヤゴは川で暮らしているので、田園にいるギンヤンマと違って農薬の影響はあまり受けませんでした。なので、開発されなければ激減するということはありません。しかし、近年はたびたび集中豪雨に見舞われるようになり、河川の土砂が河口に流されることが増えました。数年前の記録的な大雨は土砂崩れを伴うものだったため、この時にかなりの数のコヤマトンボのヤゴが流されてしまったようです。翌年、オニヤンマとコヤマトンボの姿はほとんど見られませんでした。
 両者とも2~4年間はヤゴの姿でいるため、数が回復するには年月がかかります。私のアトリエのある仰木(おおぎ)地区では、やっと昨年くらいから成虫を見かけるようになりました。
 今年は、コヤマトンボの精悍(せいかん)な姿がたくさん見られることを楽しみにしています。

コヤマトンボは、人工の川にもやってくる。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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