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連載

早春に現れる小さなシジミチョウ 〜コツバメ

第81回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 今年も春がやってきました。土手の緑が日に日に濃くなっていきます。毎年同じ繰り返しなのに、3月というのは不思議なもので、心がワクワクしてきます。
 雑木林に続くアトリエの小道では、越冬から目覚めたキタキチョウやキタテハなどに出会います。しかし、一番うれしいのは、今年の春に誕生したばかりのみずみずしい蝶を発見すること。その筆頭はなんと言ってもコツバメでしょう。
 コツバメは4枚の翅(はね)を開いても1円玉くらいの小さなシジミチョウの仲間です。翅の表はくすんだ青白で、裏面は茶褐色です。こんなチョウが木々の間をチラチラと小忙しく飛んでいても、誰の目にもとまらないかもしれません。けれども、よく観察すると、翅表の青色は陶器を思わせる渋さをもっていますし、翅裏には複雑な模様が描かれていてほれぼれとしてしまいます。
 コツバメは、一年を通じて春の季節にしか現れません。魅力的な蝶であるにもかかわらず、ほとんどの人に認知されないまま終わってしまうのがとても惜しいと思います。

春がやって来たアトリエの小道。(撮影:今森元希)

 コツバメは、ちょっと面白いポーズをとるのが特徴です。枯れ葉にとまった時や花の蜜を吸う時に、翅が太陽の光を受けやすいように体を傾けるのです。光の角度によっては、ほとんど倒れたような姿勢になることもしばしばです。その習性を知らないと、「あれ? この蝶は体が弱っているのかな」と勘違いするほどです。
 近年の研究で、モンシロチョウの翅には太陽光パネルよりはるかに優れた集光効果があることがわかっていますが、コツバメも効率よく早春の温かさを受け止めているに違いありません。

翅を閉じて休むコツバメ。(撮影:今森元希)

 コツバメの幼虫は、ツツジの仲間の花びらや蕾(つぼみ)を食べて育ちます。なので、春になると真っ先に花芽をつけるアセビやミツバツツジなどが重要な食樹となります。これらの木は、定期的に伐採される明るい雑木林を好むので、コツバメもそのような環境でよく見られます。
 最近は、コツバメの数が減少したように思います。雑木林が放置されてクヌギやコナラが大木になりすぎたことや、林床の空間をネザサやノイバラなどが覆ってしまったことが原因です。背丈の低いアセビやミツバツツジは、下草刈りなどの手入れがなされないと光が当たらず、雑木林では勢力が弱くなってしまいます。
 私のアトリエでは、毎年、コツバメが目を楽しませてくれます。この小さな妖精は、里山の健全さをあらわす生命。大切にしたいものです。

コツバメの幼虫が食べるミツバツツジ。(撮影:今森元希)

早春土手に咲くキジムシロ。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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