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連載

湖畔の松ぼっくり 〜クロマツ

第79回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 琵琶湖の対岸方向に見える伊吹山が今年も雪で真っ白になりました。冬の寒さは厳しいけれど、空気が澄んで景色が美しく見えるのはうれしいことです。
 そんな頃、湖北地方の砂浜へ松ぼっくり拾いに出かけることがあります。冷たい風が枝を揺らすので、松ぼっくりが落下してくるのです。敷き詰められた枯れた松葉の上に落ちている松ぼっくりはとても美しく、見とれてしまいます。1つ2つ拾い出すと、欲が出てきてすぐにポケットがはち切れそうになります。その経験を生かして、最近は大きめの籠を持参するようにしています。

松葉の上に落ちている松ぼっくり。(撮影:今森元希)

 浜辺で発見する松ぼっくりはかさを閉じてつるんとしていて、まるで妖精の頭のようです。これは水分を含んでいるからで、家に持ち帰って乾燥させると、うろこ模様が開いて二まわりくらい大きくなります。この変化は見事です。そのまま保存すると、クリスマスリースの飾りとしても使えます。

浜辺の松ぼっくりの形はとてもかわいらしい。(撮影:今森元希)

 琵琶湖周辺には、もともと松林が多かったようです。私が子供の頃は、大津界隈でも大きな松が浜辺に並んでいた記憶があります。景観としても秀美で、1987年には「21世紀に引き継ぎたい日本の白砂青松百選」に選ばれています。松並木を琵琶湖越しに対岸から眺めると、蜃気楼によって濃緑色のベルトが揺らいで見えます。これが何とも風情があるのです。
 これらの松はすべてクロマツ。積極的に植えられて、防風林として役割を果たしていたようです。現在、松並木は湖北地方に残っていますが、琵琶湖の南部の方でも点々とその名残が見られます。浜辺に一抱えもある大きなクロマツがポツリと生えていたら、そこはかつて松並木だったということです。琵琶湖には古い街道がたくさんあり、松の巨木は江戸から明治時代にかけての繁栄を今に伝える語り部でもあります。

湖岸のクロマツはとても大きい。(撮影:今森元希)

 このクロマツが生態的に大切な働きをしていることはあまり知られていません。しかし、よく観察していると、警戒した時の水鳥たちの避難場所にもなっています。また、風よけになるクロマツは、意外なことに植物の越冬場所にもなっています。キンミズヒキやドクダミなど、砂浜には普通は見られない顔ぶれに出合うこともしばしばです。冬はヒガンバナが青々と葉を繁らせていることもあります。また、夏になると、松の幹でオオヤマトンボやメガネサナエが羽化していることもあり、ピーク時にはヤゴの殻がいっぱいついているのを目撃します。アブラゼミもクロマツが大好きで、羽化した後の抜け殻をたびたび目にします。このように、クロマツがまるで雑木林のような環境をつくっているのです。
 今年も冬になったので松ぼっくり拾いに出かけたいと思います。今回は遠征して、琵琶湖南部の突端部まで行ってみようかと計画しています。

琵琶湖に沿って並ぶクロマツ林。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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