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連載

植物たちのゆりかご 〜石組み護岸

第74回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 毎日暑い日が続きます。夏の琵琶湖はとても人気があり、レジャー客で混み合います。特に夏休みの時期は車が渋滞し、地元民にとっては悩みのタネになることもしばしば。でも、地元ならではの特権もあります。それは、レジャー客の少ない早朝に、いつでもふらりと琵琶湖岸を散歩できることです。
 琵琶湖岸は、南部の大津市界隈では私が子供の頃の面影はなくなりました。昔は所々にヨシ原があり、白い砂浜が広がっていたのですが、今はほとんどがコンクリート護岸になっています。
 しかし、場所によっては、湖岸整備がなされる時に大きな石を組む形で波打ち際をつくっている所があり、そこにはほっとする自然の空間が息づいています。石の間に空間がたくさんできていて、魚の隠れ家になったり、砂や腐葉土が堆積して植物が根づいたりしています。10年以上も経過すると、そこでしか見られない独特の生態系を見せてくれたりもします。

琵琶湖の石組み護岸に根づいたアカメヤナギ。(撮影:今森元希)

 私がよく訪れる石組み護岸からは、遠くに比叡山(ひえいざん)や比良山地(ひらさんち)を眺めることができます。近くには大きなビルが建っていて、護岸のすぐ内側は芝が植えられ、歩道が整備されています。早朝はジョギングをしている人もいて、そこには都市的な空間が広がっています。
 そんな石組み護岸を波の音に向かって進むと、石がしっとりと濡れてきて、苔がたくさん見られるようになります。かがみ込んで石の隙間をのぞいてみると、8月ですといろいろなトンボの抜け殻が発見できます。ウチワヤンマ、オオヤマトンボ、メガネサナエなどですが、それぞれが気に入ったポジションを選んで羽化しています。がっしりとした石組みは、トンボが体を支える足場としては最高のようです。

石の上に見つけたウチワヤンマの抜け殻。(撮影:今森元希)

 石の間にはさまざまな植物も見られます。アカメヤナギやエノキなどの幼木は、種子が風や鳥によって運ばれてきたものでしょう。ただ残念なことに、ここは公園のように管理されていて、定期的に草刈りや清掃が行われるため、背丈はいつも低いままです。石の隙間を見ると幹はけっこう成長しているのに、刈り込まれて背が低いままなのは気の毒になってきます。
 樹木だけでなく、草の仲間もたくさんあります。ドクダミ、ヨモギ、ハルノノゲシなど田んぼの土手に生えているものから、公園で見かけるカタバミ、砂浜に生えているハマヒルガオなど、実に豊かな顔ぶれです。
 何でもない湖岸ですが、よく観察すると、あちこちから遠征してきた植物たちにとって、ゆりかごのような憩いの場所となっているのです。

石の隙間に生えるドクダミ。(撮影:今森元希)

岸辺にやってきたツマグロヒョウモン。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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