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連載

夏の土手に咲く 〜ヤブカンゾウ

第73回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 アトリエの雑木林は、ますます緑が深くなりました。梅雨の晴れ間があると、梢(こずえ)から木漏れ日が落ちてきます。もう数日もするとニイニイゼミの元気な鳴き声が響き渡ることになるでしょう。
 夏は田んぼの水が抜かれるので、農家の人たちの作業はちょっと一段落。炎天下の草刈りは一度はせねばなりませんが、慌ただしかった春から初夏のそわそわとした感じはなくなります。

草刈りが終わった夏の田んぼの土手。(撮影:今森元希)

 こんなふうに人気(ひとけ)がなくなった畦道(あぜみち)を歩くのは、気持ちがいいものです。草刈りを免れた急斜面や川辺近くでは、ヒメジョオンが咲いています。それらに交じって橙色の美しい花の姿も目に入ってきます。その花の名前はヤブカンゾウ。背が高くなったススキやチガヤに交じって土手に咲いていて、この植物に出合うと一気に夏を感じます。
 ヤブカンゾウは古い時代に中国から持ち込まれたとされています。ヤブカンゾウにそっくりな種類にノカンゾウがあり、こちらはもともと日本に自生していたといわれています。よく見れば、ヤブカンゾウは八重咲きで、ノカンゾウは一重咲きなので間違うことはありません。ノカンゾウも田園などに咲いているのですが、この辺りではとても希少です。20年以上前に、私は岡山県と滋賀県でそれぞれ1回ずつノカンゾウに出合っていますが、残念ながらそれっきりです。地域によっては絶滅危惧種にしているところもあるようです。

八重咲きのヤブカンゾウの花。(撮影:今森元希)

 岡山県でノカンゾウを見つけたのは、ヒョウモンモドキという珍蝶が生息している休耕田の近くでした。当時はまだ休耕田にも人の手が入り、湿地環境が残されていたからなのでしょうが、この蝶も今は姿を見かけなくなりました。滋賀県でノカンゾウに出合ったのも休耕田で、ハッチョウトンボが棲んでいる場所でした。どちらも水辺としては大変デリケートな場所なので、ノカンゾウはかなり環境を選ぶ植物なのかもしれません。
 ヤブカンゾウもノカンゾウも、園芸の世界ではヘメロカリスと呼ばれる多年草の仲間です。ヘメロカリスには数多くの種類があり、花好きの目を楽しませてくれます。大柄の花なのですが、じつは咲いているのはわずか一日。でも、蕾(つぼみ)がいくつも控えていて、次々に咲いていくので途切れることがありません。「デイリリー(Daylily)」とも呼ばれていますが、ユリの仲間ではありません。

一重咲きの園芸種のヘメロカリス。(撮影:今森元希)

 私のアトリエにも園芸種のヘメロカリスが数種類植えてあります。すぐに株が大きくなり勢力がありますが、アトリエの敷地内には里山に自生するヤブカンゾウも生えていますので、混生しないように注意が必要です。ヘメロカリスはガーデンエリアだけで管理して区別しています。ガーデンエリアのヘメロカリスは、数年ごとに株分けをして増やします。
 今年もヤブカンゾウの季節がやってきました。花心が見えにくい八重咲きのこの花に、アゲハチョウは来てくれるでしょうか。ヤブカンゾウとアゲハチョウを求めて、アトリエの下を流れる天神川沿いも散策してみたいです。

鮮やかな大輪のヘメロカリス(園芸種)。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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