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連載

予期しない遭遇 〜アケビコノハ

第52回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 庭にそよぐ風が肌に心地よく感じられます。アトリエの下に続く棚田は収穫がほぼ終わり、苅田の風景が広がっています。木々に目をやると、葉は青々と茂っているのですが、夏に比べるとやや色あせている気がします。真っ先に色づくヤマウルシなどはもう紅葉が始まっていて、鮮やかな紅色を輝かせています。

収穫が終わった後の「光の田園」。(撮影:今森元希)

 これまでにも何度かこの連載で枯れ葉色をした昆虫のことに触れましたが、今回は「アケビコノハ」という蛾の話をしたいと思います。アケビコノハは、開張が約9センチあるヤガの仲間です。前翅は形も色彩も枯れ葉そっくりで、2枚の前翅をたたんで屋根型にしっかりと閉じると存在感がまったくなくなります。細い枝につかまって動かなくなる姿はまさに忍者のようで、「忍法木の葉隠れの術」なのです。
 さらに私が魅了されるのは、アケビコノハの後翅の鮮やかさです。山吹色の地に漆黒の斑紋があり、まるで和紙の上に誰かが落書きをしたような鮮明なコントラストです。目を細めると、動物の顔のようにも見えてきます。目に焼きつくこの派手な色彩の翅が、枯れ葉色の地味な前翅の下に隠れているのですから不思議です。

枯れ葉のような前翅の間から、山吹色の後翅を見せるアケビコノハ。(撮影:今森光彦)

 とまっている時のアケビコノハは閉じた前翅に後翅が隠れているため枯れ葉のようですが、飛び立つ時には美しい山吹色が見えます。大柄な蛾が、舞うというよりカーブを描きながらロケットみたいに飛ぶので、山吹色がフラッシュのように明滅する感じです。枯れ葉と化して枝にとまっているとその存在に気づきかないため、飛び立つ時に突然出会うことになり、飛行する後ろ姿をいつも呆然と見守るだけです。そして、軌跡を追っていてもその明滅は一瞬にして消えてしまいます。
 アケビコノハは、枝にとまるというよりは最初はぶら下がるように脚を引っかけて、アクロバットさながらに翅を閉じながら体勢を整えます。気に入ったところを探すというよりも、どこでもいいから茂みの中の枝につかまればいいと思っているのでしょう。たとえ周りが緑色の葉に覆われていても、姿が枯れ葉そのものなのですから、まったく違和感がないのです。

アケビコノハは、蛾の仲間では大きい方だ。(撮影:今森元希)

 名前に「アケビ」と付くように、アケビコノハの幼虫はアケビの葉を食べて育ちますが、幼虫時代の姿にも特徴があります。それは、なんともユニークな文様を持っていることです。背中に大きな目玉模様があり、淡い黄色の地に漆黒の瞳、その中には青斑が施されていて立体感があります。片面に2個の目玉模様があるのでなんだか顔のように見えますが、実は反対側の側面にも同様の模様があるので、真上から見ると4個の目玉ににらまれることになります。本当の頭部はくるりとまるまった体の下にあって、威嚇効果のある目玉模様に守られているようです。
 アケビコノハに出会えるのは、初夏の頃と秋です。秋に出会う個体はそのまま成虫の姿で越冬します。今年も予期しない遭遇が楽しみです。

アケビの枝にとまるアケビコノハの幼虫。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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