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連載

美味しい季節がやってきた 〜ヤマブドウ 

第51回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 風が少し涼しくなってきました。今年は集中豪雨や長雨で日照不足が心配されましたが、田んぼは無事に黄色く色づきました。果たして、収穫の成果はどうでしょうか。一方、雑木林に目をやると、いろいろな木々に実がついています。葉はまだ青々としているのですが、秋は確実にやってきたようです。
 そんな頃、アトリエのヤマブドウの実が熟し始めます。このヤマブドウはアトリエを建ててすぐに幼木を植えたものです。今では2階の窓からも見えるくらいに背が高くなりました。夏になると、1階の窓辺に大きな葉が垂れ下がり、適度な陰をつくってくれます。部屋から眺めると、木漏れ日が葉に当たり、時間が刻々と変化してゆくのがわかります。この静けさがなかなか気持ちよく、私にとってかけがえのない空間になっています。

アトリエの壁に沿って広がるヤマブドウ。

 ヤマブドウは秋になると葉が色づき始めます。橙色から赤茶色、年にもよりますが、真っ赤に染まることもあります。派手さはないのですが、半分枯れながら色づいてゆく様子にどことなく柔らかみを感じます。

 このタイミングで忘れてならないのは、何と言っても果実の収穫です。夏に緑色だった実が次第に黒くなり、柔らかくなって熟します。採るのが早すぎると甘さが足りないし、遅すぎるといろいろな鳥がやってきて食べてしまいます。果実は大きな葉に隠れてあまり目立たないので、ついつい採るのを忘れてしまうのですが、ヒヨドリがつるに止まりながら何やらガサガサとやっているな、と思った時はもう手遅れです。
 鳥の目をかいくぐってうまく収穫できたヤマブドウの実は果実酒やジュースにし、たくさん採れた年はジャムにすることもあります。

ヤマブドウの実は、熟すと真っ黒です。(撮影:今森元希)

 ヤマブドウは新緑から紅葉まで季節を通じて活躍してくれる貴重な植物なのですが、私が住んでいる滋賀県大津市仰木(おおぎ)地区では、じつはアトリエ以外で見かけたことはありません。本来は寒冷地や山間に自生する種類の植物なので、この界隈の気候では自生するには暖かすぎるようですが、人工的に植え込むとちゃんと成長してくれます。ただし、中部地方や東北地方を訪れると見事に紅葉したヤマブドウに出会いますが、残念ながらあの鮮やかさはアトリエでは望めません。

アトリエの窓から下がる、葉が色づいたヤマブドウ。

 ヤマブドウに姿が似ていてこの辺りで自生している植物に、ノブドウがあります。秋の葉の色づきはあまり冴えないのですが、実(み)はとてもきれいです。薄紫色から空色まで、まるで陶芸品のような艶があり魅了されます。食べられませんが、庭で大きくなってほしい植物です。ノブドウはつるがあまり太くならないので、他のいろいろな植物に絡まりながら成長します。こうしたつる性の植物は、残す植物とそうでない植物をはっきり選別し、不要なものは切るといった手入れをする必要があり、草刈り機を使っての大雑把な管理が通用しないため、意外に大変です。
 何はともあれ、今年もヤマブドウが黒くなる季節がやってきました。

収穫したヤマブドウの実。背後の赤い葉もヤマブドウです。

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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