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連載

親切心の裏の策略 〜モチツツジ

第47回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 新緑の季節が今年もやってきました。遠くからアマガエルの鳴き声も聞こえてきます。アトリエは木々の葉に囲まれて、室内が少し薄暗くなりました。この閉鎖的な雰囲気に、森の中に隠れ潜む獣のような気持ちになります。この時季以外ではなかなか味わえない貴重な感覚です。

新緑の頃のアトリエ。田んぼには水が張られています。(撮影:今森元希)

 初夏への移ろいが始まった雑木林の中では、ツツジが咲き始めています。アトリエに自生しているのは、ヤマツツジとモチツツジです。特にモチツツジにとっては良い条件が揃っているようで、庭づくりを始めてから植栽はおろか、特別に手を加えてもいないのに、よく発育して増えています。

雑木林の中で満開に咲くモチツツジの花。(撮影:今森元希)

 モチツツジはピンク色の大輪を咲かせます。最盛期にその姿の写真を撮ると、自生種であるにもかかわらず園芸種かと思うほどの豪華さです。
 この花はアトリエの庭にとってとても重要です。5月は春の花がすべて終わり、夏の花が咲くには少し早いという端境期。そんな時に雑木林のあちこちで背丈1〜2メートルの花木が満開になるのですから、景観美としてもとてもありがたいのです。
 おまけに、モチツツジの花は蜜を出すので、甘い物好きの昆虫たちにはとびきりのレストランとなります。ちょうどこの頃は大型のアゲハチョウが現れる時期。これまでに、アゲハチョウ、カラスアゲハ、モンキアゲハ、クロアゲハなどが蜜を吸っているのを見ています。アゲハチョウの仲間は日当たりの良いガーデンエリアも好きなのですが、木漏れ日が差し込む淡い明るさのこの時期の雑木林にも頻繁にやってきます。そこにおいしい蜜を出すモチツツジが点々と咲いているのですから、彼らにとって雑木林は巡回するのにもってこいの場所というわけです。

モチツツジの花は、大輪で美しい。(撮影:今森元希)

 モチツツジの花をよく観察すると、ピンク色の花弁の上の方に紅色の斑点が見られます。それは花芯から放射状に広がるような形で模様をつくっています。正面から見ると花の奥に向かって誘われているようにも見え、昆虫たちはどうやらその模様に引かれてやってくるようで、とても親切な目印になっているのです。
 しかし、単なる親切ですまされないのがこの花のすごいところ。花の裏側にある萼(がく)や柄、それに近い葉などからネバネバした粘液を分泌していて、これに触れたら最後、昆虫たちは身動きがとれなくなってしまいます。まるで食虫植物のようです。
 花にやってくる昆虫は花粉を媒介してくれるものもいますが、花びらだけを食べてしまう厄介なものもいるので、それらを捕らえてしまおうというわけです。
 一見、のどかに見える新緑の雑木林にも人知れずいろいろなドラマがあります。今日はどんなことが起こるでしょうか。

モチツツジの花の裏の萼(がく)や柄には粘液があり、小昆虫は捕まってしまいます。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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