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連載

湿地づくりの味方 〜カサスゲ

第43回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 琵琶湖のほとりにも本格的な冬がやって来ました。今年は雪が多い年らしく、晴れた日は対岸の鈴鹿山脈の峰が銀色に輝いているのが見えます。ここ数年は温暖化のせいか積雪が少なかったので、この冬は一昔前のような季節感のある風景に出会えるのが楽しみです。
 以前、アトリエの近くにため池を再現した話をしましたが(第8〜10回)、ため池はアトリエのある仰木(おおぎ)界隈ではこの30数年で激減した環境で、特に小さなため池は姿を消しました。その小さなため池の周辺には浅い水辺があって、生きものの視点で考えると最重要な場所でしたが、現在ではほとんど残っていません。人知れずなくなってしまいました。

アトリエにある湿地の冬の風景。湿地性の植物に覆われています。(撮影:今森元希)

 私が一番再現したかったのは、「ため池」というよりは「湿地」と言ったほうがよいくらいの浅い水たまりです。昔よく見かけた湿地は、周囲に植物が茂っていて輪郭が定かではなく、陸地からしだいに水辺に誘われる感覚の場所でした。そこには湿地性の植物が生えるのですがその代表がカサスゲで、ススキのような柔らかい葉を伸ばします。背丈は高くなると大人の腰くらいになりますが、草刈りの管理をしていると膝くらいにとどまります。
 昔の人は刈り取ったカサスゲの葉を乾かして菅笠(すげがさ)に利用したことから、この名前があります。人との関わりがあった植物ですからどこにでも生えていて、農家の人たちに愛されてきたのでしょう。

カサスゲを根ごと掘り起こして、新しい湿地予定地に植えます。(撮影:今森元希)

 カサスゲが優れている点は、繁殖力が旺盛で地下で根を張って湿地のまわりを頑丈にしてくれることです。だから、私は湿地をつくる時には積極的にカサスゲを利用しました。私が「オーレリアンの丘」と名づけた現在進行形で環境づくりをしている農地や、里山再生を目指している「めいすいの里山」に設けた湿地でもカサスゲが活躍しています。アトリエの湿地に生えているカサスゲを根ごとブロック状に切り出して、それを湿地の周辺にスポット的に植え付けると、なんと翌夏には周辺が緑に覆われるくらいに茂ってくれます。
 カサスゲは水辺の移行帯をカバーする植物なので、そこを利用する水生昆虫たちにはたいへん貴重な存在です。トンボたちにとっては産卵の場所にもなりますし、ヤゴが羽化する足場としても欠かせません。背丈があまり高くない植物が茂る湿地には、さまざまな水生昆虫が集まってきます。コオイムシやミズカマキリなどの翅(はね)をもっている水生昆虫は、どこからともなくやってきて居着いてくれます。
 枯れ色の湿地の中、水生昆虫たちは果たしてどのように越冬しているのでしょうか。

カサスゲが生える湿地にやって来た越冬中のタイコウチ。

ミズカマキリも飛翔してやって来て湿地で越冬します。

*写真の複製・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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