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連載

アトリエの道に落ちるご馳走 〜エゴノキ

第40回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 カラッとした秋風がそよぐ季節です。稲刈りもピークを過ぎて、田園に静けさが戻ってきたように感じます。アトリエの庭では、秋型のアゲハチョウが花々の上を元気に飛び回っていて、夏とは違った静かな共演を見せてくれます。
 アトリエの入口の門から建物の玄関の間は、稲木(いなぎ)が立ち並ぶ道になっています。道の山側は雑木林で、稲木がある土手側はガーデンエリアです。太陽光は土手側から降り注ぐので、雑木林の木々たちは自然に道の方に枝葉を伸ばし、それが年月を重ねて道を覆うようになりました。人が歩く所は枝をはらっているので、道の上に屋根がある状態です。景観としては奥行きができてとても良いのですが、私の場合、作品の搬入や搬出のために大型トラックで通ることがあり、その時は邪魔になる枝をよけるのに苦労します。

収穫が終わった田園。背後の山並みは比叡山(ひえいざん)です。

 道に張り出した木にはいろいろな種類があり、花や芽吹きの色彩が目を楽しませてくれます。その中あるエゴノキは雑木林で普通に見られますが、生態系の中では大変貴重な木です。エゴノキは初夏に白い花を咲かせ、その花が一斉に道に落ちる時は白い絨毯のようになってとてもきれいです。花が終わると緑色の実が育ち始めます。夏の間は緑のままで、秋になるとパカッと縦に割れ目が入って褐色の種が見えるようになります。その頃にたくさんの実が道に落下して、季節感を運んでくれます。

サヤが割れて種が見える頃のエゴノキの実。(撮影:今森元希)

 この時期に実を狙っている生き物たちがいます。鳥の代表はヤマガラでしょうか。ヤマガラは黒色とクリーム色と橙色(だいだいいろ)の模様を持った美しい鳥で、とてもリズミカルな美声の持ち主でもあり、私は大好きです。アトリエ界隈では一年中見られますが、エゴノキの実はとりわけ美味しいのか、四六時中狙ってやってくる感じです。ただ、実がなっていても、まだ葉が青々と茂っていて、隣接して生えているクヌギなどの枝に止まられたら、姿を見失ってしまうのが残念です。

枝に止まって様子をうかがうヤマガラ。(撮影:今森元希)

 それから、道に落ちた実を目当てにやってくる動物たちもいます。ただし、これらの動物のほとんどは夜行性なので、実際に観察することは難しいのです。そこで、無人の撮影カメラを設置してみると、毎晩のように動物たちが来ていることがわかりました。イノシシやシカは常連客のようです。驚いたのは、この界隈では最近は珍しくなったホンドギツネも頻繁に来ていたことです。
 一番執着していたのは、イノシシです。イノシシは特に木の実が大好きなので、道に落ちたエゴノキの実を美味しそうに食べています。この時期は、クヌギ、アベマキ、コナラなどのドングリも落ちているので、栄養を蓄えるために一晩中、雑木林の中を徘徊しているのでしょう。イノシシにとっても実りの秋の到来です。

アトリエの道に落ちたエゴノキの実やドングリを食べ歩くイノシシ。(撮影:今森元希)

*写真の複製・転写を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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