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連載

ファーブルの庭

第38回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 いよいよ夏本番! 盛夏になると、たくさんの生きものと触れ合っていた子供の頃を思い出します。当時は、魚や昆虫の図鑑を片時も離さずに眺めていたものです。
『ファーブル昆虫記』にもその頃に出合いました。小学3年生くらいだったので少年少女向けのものでしたが、フンコロガシやシデムシの話に魅了されました。そして、その後、大人向けのものも読むようになりました。『ファーブル昆虫記』は、奥本大三郎さんによる完訳が集英社から出版されています。この完訳は、昆虫をこよなく愛するフランス文学者である奥本さんの言葉がファーブルの文章と重なって、とても臨場感があります。
 そのファーブルの博物館が、南フランスのセリニャンという小さな村にあります。ファーブルが晩年、昆虫記を書いた書斎や昆虫を観察した庭などがそのまま残っていて、私は今までに数回訪れています。いずれも夏場でしたが、村の外れをうろうろするだけで、『ファーブル昆虫記』に登場する主人公たちに簡単に出合えました。

ファーブル博物館にある庭。ファーブルがアルマス(荒れ地)と名付けた空間は、庭園のように美しい。

 最初に訪れた時は、ファーブルが透明水彩絵の具で描いたキノコの絵のオリジナルが展示されていました。この部屋にも何度も入らせてもらい、飽きることなく眺めたことを今でも思い出します。
 博物館の中にある庭は当時のままで、センチコガネを飼育するための容器や、シデムシを観察するための箱も野外展示されています。庭の中ほどには水がためられた大きな鉢があり、水生植物が植えられていました。そこに、イトトンボがつがいになっていくつも飛んでいたのには驚きました。

庭には大きな水場が設けられていて、いろいろなトンボがやってきます。

 ファーブルは、限られた敷地の中に昆虫たちを住まわすためのいろいろな工夫をしています。これは、長くフィールドワークをしてきたファーブルだからできる発想です。樹木や草、砂地や池など、細かな工夫の巧妙さは、実際にここを訪れないと、写真からではちょっと理解できないでしょう。
 博物館の周辺には、何でもない草地のような場所がたくさんあります。空気が乾いているうえに、地面には白っぽい小砂利が多く、いかにも水はけが良さそうです。日本の園芸ショップで売られているハーブの仲間が、ここでは野草として生えています。こうした荒れ地っぽい土地には、蜂の仲間が好んでやってきます。実際に目を凝らして観察すると、ジガバチなどの狩り蜂や、ハキリバチなどの花蜂の仲間がいっぱいいます。それも種類がとても多いことに驚きます。私が住んでいる琵琶湖の辺りでは、決して見ることができない環境なので感動しました。
「昆虫たちが集まる庭をつくりたい」。そんな私の願いは、ファーブルの庭が原点にあるのかもしれません。

マルハナバチの仲間。周辺にもたくさん飛んでいました。

ファーブルがセンチコガネを飼育・観察する時に使った道具。

*写真の複製・転写を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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