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連載

夏を告げる元気な花 〜ボタンクサギ

第37回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 雨模様の雲の切れ目からのぞく太陽の光がまぶしく感じられます。もうすぐ梅雨明け、青々とした空が待ち遠しい今日このごろです。
 アトリエの庭では、今年もボタンクサギが咲き始めました。このボタンクサギは、10年くらい前に宮崎県の木城町(きじょうちょう)にある「木城えほんの郷(さと)」の村長さんから数株いただき、それが増えたものです。前々から欲しかった植物だったので、いただいた時は感激しました。
 ここ十数年来、NHKの「ニッポンの里山」というシリーズ番組の仕事で、日本各地を旅するようになりました。九州や四国、紀伊半島などの南方も数多く訪れたのですが、行く先々でボタンクサギに出合いました。西日本以南では、庭に生えているだけでなく、里山に自生していることもあり、その美しさに魅了されました。

アトリエの庭に咲いたボタンクサギ。奥に咲くブッドレアに負けない勢いです。

 豊満なアジサイを思わせる花は鮮やかなピンク色で、蕾(つぼみ)の時は紅色がさらに強く、群落を形成するととてもボリュームがあります。私はこの花に出合うたびに、なぜか東南アジアを取材していた頃を思い出します。どことなく熱帯の空気感を醸し出してくれる花でもあります。
 私がボタンクサギを庭に植えたいと切望した理由は、この花に数多くの蝶や蛾が集まってくるからです。特に大型のアゲハチョウの仲間は、この花に目がありません。モンキアゲハ、ナガサキアゲハ、カラスアゲハ、クロアゲハ、キアゲハ、ナミアゲハなど、庭を華やかにしてくれるそうそうたるメンバーが蜜を吸いにやってきます。ボタンクサギはラッパ状の小花の集合体なのですが、蜜は細長い花の奥にあるため、長い口吻(こうふん)を持っている昆虫しかありつけないというわけです。

ボタンクサギは、星のような花がいっぱい集まっています。

 梅雨明け前のこの時期、里山にはあまり花が多くありません。夏の後半になると、自生するクサギが花を咲かせます。クサギはボタンクサギと同じくシソ科の植物で、甘い香りを放つため、やはり数多くのアゲハチョウを集めます。しかし、開花時期が8月に入ってからなので、場所によるものの、アゲハチョウたちの発生のピークとややずれることがあるのが残念です。一方、ボタンクサギの花の咲き始めは7月中旬からなので、夏に成虫になる夏型のアゲハチョウたちの門出とぴったりと時期が合います。

ナガサキアゲハは、ボタンクサギが大好きです。

 それから、ボタンクサギは私たちにとっても好都合なことがあります。それは花の咲く高さです。クサギは樹高が4〜5メートルほどにもなりますが、ボタンクサギの樹高は1〜2メートルで人の目の高さに花が咲いてくれるので、アゲハチョウが蜜を吸いにやってきたら、至近距離で観察することができます。
 ボタンクサギに難点があるとしたら、繁殖力が旺盛すぎることでしょうか。上品な花を愛でるガーデナーとは相性が良くないかもしれませんが、私はこの生命力を頼もしいと思っています。
 今年も元気なボタンクサギとともに、アゲハチョウたちに出合える夏がやってきます。

モンキアゲハもひっきりなしにやってきます。

*写真の複製・転写を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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