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連載

黄色い舞姫 〜モンキチョウ

第34回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 今年も本格的な春が到来しました。暖冬だったので桜の開花も早く、春は駆け足で通り過ぎてしまいそうです。
 今から40年以上も前、私がアトリエ近くの田園を撮り始めた頃は、レンゲ畑が点在していました。ピンク色のレンゲの絨毯の中に入ると、ミツバチの羽音が心地よく響いてきます。かがみ込んで耳の鼓膜に優しい振動の音色に陶酔していると、時折、頭の上を影が横切りました。よく見ると、元気よく飛び回る蝶たちで、それも1匹や2匹ではなく、見渡す限りのレンゲ畑にかなりの数が見られました。その蝶は、モンキチョウです。

アトリエの裏に広がるレンゲ畑。奥に見えるのはミツバチの巣箱。

 モンキチョウは、幼虫の姿で越冬して、気温が上がるといち早く蛹になって羽化します。なので、4月に見られるのは全て初々しい蝶というわけです。成虫で越冬するルリタテハやヒオドシチョウに比べると、疲れた様子がなくとてもフレッシュ感があります。
 モンキチョウのオスは黄色で、メスは黄色と白色の2タイプがいます。オスもメスも翅(はね)には、黒い縁取りの丸い模様があります。名の通り「紋を持った黄色い蝶」で、前翅には黒斑、後ろ翅の中央には薄い橙色の紋を持っています。
 この頃出合う黄色い蝶にはキタキチョウもいますが、こちらはモンキチョウのように花畑をさっそうと飛翔するのではなく緩やかな飛び方なので、慣れてくるとすぐに見分けがつきます。キタキチョウが見られるのは林や木々が茂る土手に近い場所です。これはキタキチョウの幼虫の餌がネムノキやヤマハギなど、雑木林に面したところに生える木であることが関係しています。そして、キタキチョウは落ち葉の下に隠れて成虫で越冬します。
 一方、モンキチョウの方は広々としたレンゲ畑に多いのですが、それは花の蜜が大好きというだけではありません。レンゲの葉は幼虫の餌になることから、母蝶はレンゲの花がピークを過ぎる頃になると、葉に1つずつ卵を産み付けます。

レンゲの花にやってきたモンキチョウ。

 最近、レンゲ畑はめっきり少なくなりましたが、相変わらずモンキチョウの姿は健在です。それは、農道の縁に見られるシロツメクサや、土手に生えるコマツナギなども幼虫の餌になっているからでしょう。
 モンキチョウは、背丈の低いタンポポやヒメオドリコソウなどの花も大好きです。晴れている時には、青空を背景にエネルギッシュに土手を越えて棚田のあちこちを移動する姿を目にします。その活発さは大型のアゲハチョウにも負けてはいません。
 私は毎年、この黄色い舞姫の姿を見ると、「春爛漫」とはまさにこのことだと強く実感します。

綿毛になったタンポポ。

田んぼのあぜ道に多いヒメオドリコソウ。

*写真の複写・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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