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連載

晩秋に光るウスタビガのファッションセンス

第29回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 秋が深まると気持ちが落ち着いてきます。紅葉した木の葉がハラハラと舞い落ちて、冬への静かな移ろいを感じるからでしょうか。
 1年のフィナーレが聞こえてきそうなこの時期、朝夕の冷え込みにも負けず、新たに誕生する元気な生きものがいます。それはウスタビガです。ヤママユガの仲間なのですが、よく見かけるヤママユガほど大きくありません。しかし、小柄な姿の中にどことなく品格があります。

繭から羽化したばかりのオスのウスタビガ。

 オスは枯れ葉色をしていてシックな感じ、メスは黄色に近い山吹色をしています。盛りが過ぎた紅葉の雑木林に、なんてよく似合うファッションセンスでしょうか。オスもメスも翅(はね)に4つの文様があって、ガラスのように透けています。これは一体何のためにあるのだろうかといつも考えてしまいます。体をもっとよく観察すると、翅の付け根あたりまで細い毛がびっしりと生えていて、とても暖かそうです。11月頃に姿を現すのにふさわしいいでたちをしていることに感心します。
 ウスタビガは、春から初夏にかけては、幼虫の姿で過ごします。幼虫の食草は、クヌギやコナラなど雑木林の木々の葉です。私は以前、ウスタビガを飼育したことがありますが、食欲旺盛な幼虫にはびっくりしました。大きく成長した幼虫の体は、背面は明るい黄緑色、腹面は濃い緑色をしています。体を2つに割ったような配色です。最初は、不思議だなと思っていたのですが、野外でこの幼虫に出合った時に納得しました。ウスタビガの幼虫は、木の枝に逆さまになって止まっていることが多いのですが、上から照らす太陽の光の中では、この配色が見事な保護色になるのです。

食欲旺盛なウスタビガの幼虫。

 十分に葉を食べた幼虫は、やがて繭(まゆ)をつくって蛹(さなぎ)になります。この繭は一風変わっていて、上部の口はぴったりとくっついていますが、左右から指でつまむとがま口のようにパカッと開きます。繭の長さは4センチくらいなのですが、もしももっと大きかったら、そのままお財布として使えそうです。先端部には小さな穴が開いていて、風通しも良さそうです。
 この黄緑色の美しい繭は、枝葉に隠れながら夏を過ごし、紅葉がピークの頃にいよいよ羽化します。

黄緑色が美しいウスタビガの繭。

 ウスタビガは見つけようとがんばっても見つけ出すのはなかなか難しく、いつも偶然の出合いです。羽化したばかりの成虫がまだ繭に止まっているところを発見したり、アトリエの外灯を消し忘れ、朝起きたら近くの壁に止まっていたりという具合です。
 この宝石のような蛾に今年も出合えるでしょうか。晩秋は気が抜けない季節なのです。

落ち葉が降り注ぐ晩秋のアトリエ。

*写真の複写・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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