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連載

カエルの季節・モリアオガエル

第24回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 梅雨がやってきました。灰色の空から降りてくる光は柔らかく、木々の緑を美しく見せてくれます。成長しきった葉が、一番みずみずしく輝くのは、6月なのかもしれません。

雨の日のアトリエのアプローチ。湿気で煙って奥行きが出ている。

 そんな潤いのある空気を手ぐすねひいて待っているのは、カエルたちではないでしょうか。
 アトリエ周辺は環境に恵まれていて、カエルの仲間は何種類か生息しています。私がアトリエを建てようとこの土地にやってきたのは、今から30数年前のことになります。放置された田んぼの土手を登り、ブッシュをかき分けて奥に進むと、そこにあったのは深いため池。そして、その周りの木立に、握り拳より一回り大きな白い泡の塊を発見しました。私はそれがモリアオガエルの卵囊だということを知っていたので、とてもうれしくなりました。
 モリアオガエルは、オスは鮮やかな草色をしています。シュレーゲルアオガエルによく似ていますが、モリアオガエルの方が指の先の吸盤が発達しており、木登りもより得意で、非常に愛嬌があるのです。メスの方がオスより一回り以上大きくて更にダイナミック。体の色は迷彩模様で、とても魅力的な生物です。こんなカエルが目の前に暮らしていると想像しただけで気持ちが高まります。

モリアオガエル。上がオス(体長5〜7センチメートル)で、下がメス(体長6〜9センチメートル)。

 前にも少しお話をしましたが、大津市郊外の仰木(おおぎ)から雄琴(おごと)にかけては、かつてため池がとてもたくさんありました。農道を散策していて、田んぼの脇や雑木林の中に小さくポッカリと口を開けている水面によく出合ったものです。木立に囲まれたため池では、春の終わりから初夏にかけて、モリアオガエルの卵嚢を普通に発見できました。新緑の小枝に白い球体がいくつもぶら下がっている、そんな光景が毎年見られたのです。
 この界隈の標高は100メートルくらいで、琵琶湖の湖面よりほんの少し高い程度ですのです。人家もすぐ近くにあり、こんな身近なところに大型の美しいカエルがいるなんてとても信じられないと感激したのを思い出します。
 ところが月日が経つにつれて、仰木から雄琴にかけての田んぼ、雑木林、ため池が入り交じる丘陵地帯に変化が見られるようになりました。谷津田が埋め立てられてニュータウンができ、曲線のあぜ道をもつ田んぼを四角くする圃場整備もさかんに行われるようになりました。運よく開発から逃れた所もあるのですが、ため池はあっても、モリアオガエルの姿はもうありません。それと共に、ノアザミなどを筆頭に、土手に生える在来の植物も減少傾向にあるものがたくさんあります。おそらく、土手の保水作用の低下によって土地全体の乾燥が進んでしまったのではないかと思っています。
 現在アトリエ周辺には、数は少ないながらモリアオガエルが姿を見せてくれますが、もっと棲みやすい環境をつくりたいと検討中です。
 それと吉報を一つ。昨年のことですが、私たちが行っている水系の生物調査によって、アトリエよりやや上流地区にあるため池に、モリアオガエルが健全に残っていることが分かりました。このことについては、次回にお話しさせていただきたいと思います。

アトリエの庭に咲いたアジサイを摘んで、ドライフラワーを作る。

部屋に飾ると季節感が醸し出される。

*写真の複写・転載を禁じます。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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