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連載

秋色の蝶、キタテハ

第17回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 紅葉真っ盛り。アトリエでは、色づいた木々を楽しむベストシーズンがやってきました。ヤマボウシの紅色も鮮やかに映えています。
 今年の夏は、強い台風に見舞われ、枝が折れたり葉がこすれたりして、梢がスカスカの状態になりました。例年は、アトリエはこんもりと葉に覆われて薄暗く感じるのですが、空が透けて見えます。葉がとても少ないので紅葉は期待できないと思っていたのですが、彩りの秋はやってきました。なんとか最悪の事態は免れたようです。

少しずつ紅葉に包まれ始めた秋のアトリエ。

ヤマボウシの紅葉は美しい。

 こんな季節に元気良く飛んでいる蝶が何種類かいます。その一つが、キタテハ。鮮やかな橙色の地に黒斑の翅(はね)を持つこの蝶は、秋の終わりがよく似合います。
 キタテハは、夏にクヌギの樹液などにやってくるのを見かけますが、その時の翅は表が山吹色、裏は黄色っぽい茶色で、夏型といいます。ところが、秋になってから現れるものは、全体に色が濃くなった感じで秋型と呼ばれます。翅の表は橙色、裏は赤茶色で、翅の縁のギザギザの切れ込みが深くなり、えぐれたところが枯れ葉そっくりになります。蝶の姿でそのまま越冬体制に入るため、翅を閉じて休むこの蝶にとって、翅の形や色はカムフラージュに役立つのでしょう。
 キタテハにはこんな思い出があります。小学生の頃、近所に大きな柿の木があって、落下した熟し柿にキタテハが群がっていました。翅を半開きにして止まる姿を見て、その豹(ヒョウ)のような紋様の美しさに感動しました。その時の、柿のやや腐敗した甘酸っぱい匂いと鮮やかな翅の色彩が重なって、今でもキタテハに出会うと、あの情景を思い出します。キタテハは、里山に棲むタテハチョウの仲間では最も普通の種類なのですが、私にとっては、秋の終わりの季節を運んでくれる貴重な存在です。

フジバカマにやってきたキタテハ。

 キタテハの幼虫は、カナムグラの葉を食べます。カナムグラは、手のひらを広げたような葉をしていてかわいいのですが、茎はザラザラとしていて、放置しておくと茎同士が絡まり合って成長し、他の植物を追い出してしまう勢いを持っています。しかし、こんなに生命力があるのに、いざカナムグラを見つけようと思ってもすぐには見つかりません。田んぼの土手やあぜ道、雑木林の中を探してみてもどこにも生えていないから不思議です。これは、カナムグラがつる性の植物で、定期的に刈り込まれている場所では繁茂できないからで、田んぼと水路の端境(はざかい)や農道と川の間など、農家の人の目が届かずちょっと管理が行き届かなくなるようなところに生えています。
 そんなわけで、アトリエの庭には、キタテハのためにそうした場所を意識的につくりました。一角を草刈りの回数を減らして雑草天国にしています。今年もフジバカマやノコンギクの花の上をキタテハがいくつも舞っています。その姿は、秋の深まりを楽しんでいるかのようです。

コシアブラは黄葉する。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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