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連載

ため池をつくる<2> ため池には個性がある

第9回

今森光彦(写真家/切り絵作家)

 スイセンの花が満開です。黄色い花弁に顔を近付けると甘い香りが鼻をくすぐります。今年は、例年になく低い気温が続きましたが、やっと春がやってきたようです。

春の足音が聞こえる早春のアトリエの庭。

 

スイセンやバイモの花を部屋に飾ってみた。

 前回に引き続き、ため池づくりのお話です。
 放置されたため池が昆虫たちの楽園になっているということを知って、30年以上前に、湖西地方(琵琶湖の西岸に位置する大津市や高島市)界隈のため池を詳しく調べました。すると、驚いたことに半数以上のため池が管理されていないことがわかりました。
 そして、見放されたため池は、外観も植生も同じものが二つとなかったことに感動しました。例えば、ヒルムシロという水生植物が独占しているため池。ヒシが水面を覆い尽くし、葉が鏡のように光っているため池。周囲にガマなどが茂って、遠くからだとため池に見えないもの。水生植物はほとんど生えていないけれど、倒木や枯れ枝などが水面から顔を出しているため池。実にいろいろな様相のため池に出会うことができました。これらの変化は、周囲の環境の違いによってもたらされていることもわかりました。
 環境の違いをつくっているのは、次のような要因です。
 まずは、ため池の周囲に雑木が生えている場合。葉の茂り方で日照時間が変化しますし、水底に落ち葉が堆積します。それから、ため池が田んぼの中にある場合。このケースでは日照時間に恵まれることがほとんどですが、北斜面か南斜面かによって様相が変わってきます。また、平野部の平坦地と、山際などの山間地とでは、わずかの標高差でも植生が変わってきます。その他に、ため池がつくられる前に、そこがもともと湧水地であった場合もあります。これは見た目では判別できませんが、ため池によっては、水底の各所から清水が噴き出していることもあります。この場合は、水温、水流、浄化などの条件が加わって、時には素晴らしいため池環境をつくってくれます。以上は、ため池をつくる本当に大まかな環境要素ですが、それぞれの条件が重なり合って、とても複雑な環境をつくり出すことになります。
 こんなため池が何十カ所も静かに眠っていたのですから、宝物を発見したような気持ちになったことは言うまでもありません。「ため池には個性がある」。そう思うようになったのはこの時です。
 それ以後、「池すくいの会」を結成して、管理されていないため池に棲む昆虫を中心とした生きものについて、2年間くらい調査しました。この会の趣旨は、また別の機会に話をさせていただくとして、たった2年で調査をやめてしまうことになった理由を言わねばなりません。それは、大津市から高島市界隈にかけて大規模な田んぼの区画整備が始まり、小さなため池が全て埋められ、一括して大きなため池につくり替えられたからです。新しいため池のほとんどには水漏れ防止のシートが張られ、コンクリートの池のようになりました。おまけに周囲はフェンスで囲われ、関係者以外は近付くことができなくなりました。
 このような出来事があり、その悔しさが私の庭のため池づくりの原動力になっています。

 

アトリエへのアプローチの稲架木(はさぎ)の上にとまったジョウビタキ。

 

春になるとモグラが活動を始める。

著者情報

写真家/切り絵作家

今森光彦

いまもり みつひこ

1954年滋賀県生まれ。幼い頃から昆虫少年で、大学卒業後に独学で写真を学び、1980年よりフリーランスとなる。以後、琵琶湖をとりまくすべての自然と人びとのかかわりをテーマに撮影している。また、熱帯雨林から砂漠まで昆虫写真を追求し、広く世界の辺境の地まで取材し続けている。木村伊兵衛写真賞(1995年)、土門拳賞(2009年)などを受賞。NHKスペシャルで「里山」をテーマにした番組を多数放映、現在もNHKBSプレミアムにて「オーレリアンの庭 今森光彦の四季を楽しむ里山暮らし」を不定期放映中。主な書籍に、『昆虫記』(福音館書店、1988年)、『里山物語』(新潮社、1995年)、『NHK ニッポンの里山』(NHK出版、2014年)、『今森光彦の心地いい里山暮らし12か月』(世界文化社、2015年)ほか多数。

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