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連載

第10回 ますむらひろしさん(漫画家)

猫は人間にいろいろなことを気づかせる自然界からの使者なのです。

ますむらひろし(漫画家)

加藤由子(動物ライター)

  ますむらひろしさんの漫画、「アタゴオル」シリーズには、服を着て二本足で歩く太った猫「ヒデヨシ」が登場することで有名です。「ヒデヨシ」は、はっきり言って“かわいらしい”猫とは言えません。“猫らしい”とも言えません。でも、ますむらさんの猫飼育歴は40年にも及ぶと言います。ますむらさんはいったい、どんな「猫観」を持っているのでしょうか。興味津々の訪問です。

「かわいい」よりも「かわいそう」から始まった

加藤 元気な子猫が3匹もいるんですね! うちは年寄り猫が2匹だから、とても新鮮です! 子猫たちの話は後でゆっくりお聞きするとして、まずはますむらさんの猫遍歴を教えてください。これまでに30匹以上の猫と暮らしてきたそうですが、猫を飼ったのはいつごろからですか?
ますむら ちゃんと飼ったのは東京に出てきてから。結婚する前だから、23歳くらいかな。山形県米沢の実家は魚屋だったので、小さいころから猫はいましたが、ネズミを捕るためで、かわいがるという環境ではなかったですね。猫が年を取ってネズミを捕らなくなると、ばあちゃんが「捨ててこい」って小学生の俺に言うんです。50年以上前の話です。だから、猫はいたけれども田舎にいたころは何とも思わなかった。
加藤 猫がかわいいと思ったきっかけはなんですか?
ますむら 猫を意識したのは「かわいい」よりも「かわいそう」が先にありました。昔、水俣病の実験で、水銀で汚染された魚を猫に食べさせるというのがあって、人間ってなんてひどいことするんだと怒りを覚えたんです。
加藤 私も水俣病の猫が飛び跳ねている映像は記憶に残っています。
ますむら ちょうど漫画を描こうと思っているけれど何を描いたらいいかわからない時期で、宮沢賢治をじっくりと読み始めていたころでした。自然保護の機運が高まる前の公害垂れ流しの時代の末期に水俣病の問題が出てきて、人間と自然を考えたときに、俺にとって猫は自然側にいるもので、人の都合で実験に利用されている猫に感情移入したんです。
加藤 そこから作品づくりにつながっていくわけですね。「かわいそう」から「かわいい」にはどのように変わっていったのですか?
ますむら 同じころ、妹が実家で三毛トラの猫を飼い始めて、それを見てたら「かわいいな」と。で、実際に自分も飼ってみると、やっぱりかわいかった。

くせっ毛の中からノミがぴょん

加藤 歴代30匹以上なら、エピソードはいろいろありそうですね。何かおもしろい話はありませんか?
ますむら そんなのあったかな? あんまりないですね。
加藤 何かあるでしょ。思い出してください。
ますむら アハハハ、何だか事情聴取みたいだな。エピソード、あったかなあ。
加藤 いちばん長生きした猫は何歳でしたか?
ますむら 21、22歳まで生きた猫はいましたね。70年代に飼ったクシロという猫で、歴代のオスの中でも立派な強い猫でした。
加藤 そのころだと自由に外にも出ていたんですよね。それで20歳以上は長生きですね。
ますむら そう言えば、30年以上前、この近くの借家に住んでいたときに、向かいに新築の家が建って、庭に子どものための砂場があったんです。当時うちには3匹の猫がいて自由に外に出ていたので、猫にとっては楽しいトイレができたようなもの。そしたら、そこの奥さんから「猫を外に出さないでください」と言われました。仕方ないから猫を出さないようにしたんですが、あるとき、どこかの野良猫がそこでウンコをしているのを目撃。向こうの奥さんもそれを見ていたから、「ね、うちのだけじゃないでしょ」って(笑)。
加藤 砂場なんて猫は大喜びですからね。
ますむら その家を建設中のころ、うちのどら猫どもが組み上がった柱に上り、仮止めしてあった天井をぶち抜いて、断熱材にじゃれてボロボロにしてしまったこともありました。当然のことながら大工さんはカンカンに怒って……。これはうちの猫の仕業だということが明らかだったので、ちゃんと謝って断熱材代を弁償しました。
加藤 あるじゃないですか、おもしろい話(笑)。
ますむら もう一つ思い出した。昔、運転免許を取るために自動車教習所に通っていたころ、授業中に俺の髪の毛の中からノミが1匹、ぴょんって飛び出てきたんです(笑)。俺、くせっ毛なんで、紛れ込んでたみたいで。隣に女の人が座っていたのですが、さすがにまずいと思って焦りました。隣の人は気づいていなかったけど。
加藤 アハハハハ、おもしろい話、いっぱいあるじゃないですか。

初めてのペットロス

加藤 ますむらさんの猫と言えば、「ヒデヨシ」に代表される擬人化された猫のキャラクターが有名ですが、普通の猫の絵は描かないのですか?
ますむら 作品としては描いてこなかったけど、自分ちの猫が亡くなったときに遺影を描くことはあります。
加藤 去年初めてペットロスになったそうですね。
ますむら そうなんです。モミちゃん、あの猫は別格でした。他の猫は仕事場に入れないのですが、モミだけはどうしても入りたがってひざに乗せて原稿を描いてたし、いつも一緒にいた感じ。2015年4月8日に17歳で亡くなって、俺の布団の中でみとりました。1カ月くらい前から調子が悪くなって医者に連れて行き、少し持ち直したけどダメでした。でも、死んでいこうとしているときに薬を使って延命することは、猫にとってよかったのか。結果的には苦しいのを延ばしちゃっただけかなとか、いろいろと考えさせられました。
加藤 そこは難しいですよね。ペットロスというのはどんな感じでしたか?
ますむら 頭からずっと離れない。死んでしまっても姿を探してしまう。そこまで自分と猫が近い関係になっていたのかと気づきました。ずいぶんたくさんの猫を見送ってきたけれど、この感覚はモミちゃんが初めてでした。
加藤 今までと何が違ったんですかね。
ますむら 好きだという思いが強烈にあったんでしょうね。
加藤 そこまで思ってもらえたモミちゃんは幸せな猫ですね。
ますむら モミちゃんが亡くなった後、今年の1月に黒猫のススコちゃんが亡くなったんですが。
加藤 そのときは、ペットロスじゃなかったんですね。
ますむら そうですね。ごめんね、ススコ(笑)。

3匹の子猫たちがやってきた!

著者情報

漫画家

ますむらひろし

ますむら ひろし

1952年山形県米沢市生まれ。73年、『霧にむせぶ夜』(週刊少年ジャンプに投稿、手塚治虫賞準入選)で漫画家としてデビュー。宮沢賢治に影響を受け、75年から『ヨネザアド物語』や「アタゴオル」シリーズを発表する。83年からは登場人物を猫のキャラクターに置き換えた賢治の童話作品の漫画化に着手、85年には『銀河鉄道の夜』がアニメーション映画となる。97年、『アタゴオル玉手箱』で日本漫画家協会大賞、2001年、宮沢賢治学会イーハトーブ賞を受賞。米沢市観光大使。
(2016.09)

動物ライター

加藤由子

かとう よしこ

動物ライター、エッセイスト。「ヒトと動物の関係学会」監事。1949年生まれ。日本女子大学卒。大学では生物学(動物行動学)を専攻。移動動物園などを経てフリーライターになる。動物、特にネコの生態や行動学に精通し、ネコに関する書籍などを多数執筆している。ネコ関連の著書に、『雨の日のネコはとことん眠い』『ぬき足、さし足、にゃんこ足』(共にPHP研究所)、『ネコを長生きさせる50の秘訣』(サイエンス・アイ新書)、『猫の気持ちを聞いてごらん』(幻冬舎文庫)、『猫式生活のすゝめ』(誠文堂新光社)、『猫とさいごの日まで幸せにくらす本』(大泉書店)、『猫の気持ちは見た目で9割わかる!』(大和書房)ほか多数。

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