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連載

第4回 竹内薫さん(サイエンス作家)

ツンデレな「シュレ猫」達だから、何でも仕方がないと許せちゃうんですよね。

竹内薫(サイエンス作家)

加藤由子(動物ライター)

 テレビの科学番組などでおなじみの竹内薫さんは、自分が関わってきた猫達をまとめて「シュレ猫」と言います。量子力学の世界で有名な思考実験、「シュレディンガーの猫」からとった呼び方です。量子力学も「シュレディンガーの猫」の論理も私にはチンプンカンプンですが「シュレ猫」という言葉の響きは何ともすてき。そのアンバランスさが猫の魅力だということなのでしょうか? 教えてください、竹内さん。

3匹になって社会ができ、4匹になって国が生まれた
加藤 竹内家の猫は今、全員で何匹ですか?
竹内 今は4匹です。
加藤 このキジトラの子、大柄ですね。横から見ると吻(ふん)が長くて、少し洋猫っぽいですね。
竹内 「コタロウ」ですね。言われてみれば確かにちょっと長いかな。動物病院から引き取った普通のミックス猫です。今ダイエット中で、獣医さんに指摘されて8キロから5キロ台後半まで落としました。
加藤 だからおなかが少したるんでいるんですね。あっちの猫は? 私、ああいう模様の猫を「ぞうきん猫」って呼んでいるんです。サビ猫って洗ってないぞうきんみたいでしょ(笑)。
竹内 アハハハハ、ぞうきん(笑)。「ナナ」です。妻がセブン‐イレブンの前で保護したからナナ。それから、黒白がゾンゾンこと「ゾロりん」。この子は多頭飼育崩壊(飼育する猫の数が増え過ぎて飼いきれなくなった状態)の家からやってきました。その時5歳で去勢もされていなくて、最後までもらい手が付かなかったんです。もう1匹のロシアンブルーが「モモ」。僕の担当編集者の猫だったんですが、事情があって手放さなければいけなくなって、我が家にやってきました。
加藤 猫同士の関係はどうですか? 2匹よりある程度頭数がいた方が、うまくいくんじゃないかと私は思っているのですが。
竹内 それはありますね。1匹じゃ寂しいし、2匹では仲が悪いと厳しくて、3匹になった時にちょうどうまい感じになってくる。うちでは「3匹になって社会ができ、4匹になって国が生まれた」って言っているんです。
加藤 それ、面白いですね。社会と国の違いって何ですか?
竹内  コミュニティーの次に本格的な関係性ができてくるというか。時には内戦もあります(笑)。
加藤 そうすると国王とかいるんですか? 一番の為政者は誰?
竹内  誰がというより、関係性はいろいろです。コタロウが最年長で強いけど、遊びがうまくないので、ナナとモモの女の子(メス)達から敬遠されています。ゾンゾンはコタロウに甘えているので、男の子(オス)同士ではコタロウが上。でも、EQ(心の知能指数)が高くて猫同士の付き合いがうまいのはゾンゾン。ゾンゾンが来る前には、今はもう死んでしまった「ニャー君(にゃあちん)」という猫もいました。ニャー君は子猫の頃に来たので、コタロウもナナも保護者的に面倒を見て、うまくいっていたんです。でも、そこに5歳のゾンゾンが来たことをニャー君は受け入れられずに、一つの部屋に1カ月籠城(ろうじょう)しちゃった。ゾンゾンがその部屋まで追い掛けていき、ニャー君がギャアギャア騒ぎ、ナナが助けに行く。そんな状態がしばらく続いた後、ニャー君は諦めたのか落城しました(笑)。
加藤 無血開城(笑)。いろいろドラマがあったんですね。
竹内 その後は一緒に遊ぶようになりました。モモも不本意に連れてこられたので、当初は荒れていましたが、こうして落ち着いたのはゾンゾンのおかげです。
加藤 私は同時に2匹以上飼ったことがないけど、2匹だと仲が悪いとどうしようもない。動物園では、仲の悪いサル山にイノシシを1匹入れると、サル同士が仲良くなるという話があるんです。ようするに、宇宙人が攻めてくるとなったら人類が団結するみたいな(笑)。だから、2匹の猫の相性が悪かったら、もう1匹入れるとうまくいくんじゃないかとも思うのですが、怖くてやっていません。
竹内 確かにニャー君がいる頃はコタロウとナナの関係も比較的良かったけれど、死んでしまった後に険悪な関係になったから、ニャー君は間を取り持つ役割をしていたのかもしれません。
加藤 仲の悪さも4匹いるから紛れて、調和が保てているということですね。

力学の原理が応用された、華麗なる猫の空中回転
竹内 ゾンゾンは運動神経がすごく良くて、どうやって上ったんだろうって思うような場所にいることがあるんです。うちは猫が落下しないようにベランダをネットで囲っていますが、これもゾンゾンのためです。
加藤 マンションの7階ですからね。鳥を追い掛けて落ちたら大変!
竹内 むしろもっと高層階から落下した方が猫の生存率は高いと言われていますよね。中層階だと打ちどころが悪くて死んでしまう猫も多いけど、高層階だと骨折などのけがはしても逆に助かる率が上がるという報告を見たことがあります。
加藤 物理学的に言うと落下する時には、なんちゃらの重力加速度が掛かるとかいう法則がありましたよね。それだと高い所から落ちた方がぶつかった時のダメージが大きいんじゃないでしょうか。
竹内 空気抵抗もあるから、高いから単純にその分スピードが速くなるというものでもないんです。高層階からだと猫も準備する時間があるのか、諦めて無駄な力が入っていないから助かるのか。7階くらいだとまだ何とかなるかもと体が突っ張って、悪い体勢で落ちてしまうのか。
加藤 猫、諦めますかね?
竹内 諦めないかな(笑)。手足を広げてムササビ風に空気抵抗を利用しているのかもしれませんが、実際の映像や実験した結果を見たわけではないので、本当の理由はわかりません。でも、猫が落下する時に体を回転させることと関係がありそうですね。これは僕もやったことがありますが、猫を抱え上げて背中を下にしてベッドの上に落とすと、猫はまず前足を小さくたたんで前半身だけ回転させて前足を下に向け、次に後ろ足を小さく畳んで後半身を回転させます。これで背中からではなく足から見事に着地できる。ここには力学の原理が見事に応用されているんです。
加藤 ベッドの上だったら1回転ですよね。高い所からだと何回転もして足から着地できるってことかしら? 
竹内 その間に空気抵抗を受けてうまく減速し、回転を調整しているのかもしれないですね。体勢を整える時間もあるでしょうし。いずれにしてもベランダからの落下はとても危険なので、我が家ではネットを張っています!

物理学的な猫の魅力は物体としてのしなやかさ
加藤 竹内さんの猫エッセイによく「シュレ猫」というのが出てきますね。物理学の「シュレディンガーの猫」からということですが、どういう意味合いで「シュレ猫」って呼んでいるんですか?
竹内 「シュレディンガーの猫」というのは、物理学者シュレディンガーの量子力学の思考実験、つまり脳内シミュレーションです。重ね合わせの例えに使われますが、50%の確率で猛毒が出る装置が付いた箱の中に1匹の猫を入れた場合、確率的に「生きた状態」と「死んだ状態」が重ね合わせになっているという考えです。すごく簡単に言えばその二面性と、本物の猫が持つ二面性を引っ掛けて僕は「シュレ猫」と呼んでいます。今はこうしてくつろいでいる猫が、突然、豹変することもあるし、猫にはツンデレなところもある。猫の感情の移り変わりが面白いと思っているんです。
加藤 なるほど、そういうことだったのですね。竹内さんのご専門の物理学的な観点から猫の魅力を語るとしたら、どんなところですか?
竹内 物体としてのしなやかさですかね。ネコ科全般に言えることですが、優雅なしなやかさは流体力学に結び付きます。例えば最速で走る必要があるチーターの体は、スポーツカー的なシェイプですよね。空気抵抗を減らすために体も流線形に近づき、それによってしなやかな動きができる。そこが美しいですね。自然界には定数があり、生き物の体は黄金比になっているので、それにうまく当てはまっているのでしょうね。
加藤 効率的であるとは思うのですが、それを美しいと思わせる仕掛けがあるということなんですか。
竹内 物理は数学を元にしているわけですが、そこには自然界の定数が入ってくる。その観点から見ると自然な形に引かれるというのはあると思います。

著者情報

サイエンス作家

竹内薫

たけうち かおる

1960年生まれ。東京大学理学部物理学科卒。マギル大学大学院博士課程修了。理学博士。科学評論、エッセイ、書評など、作家生活25年で200冊あまりの本を出版しつつ、「サイエンスZERO」(NHK Eテレ)の司会、「ひるおび!」(TBS系)のコメンテーター、講演などを精力的にこなす。著書に『99.9%は仮説-思いこみで判断しないための考え方』 (光文社、2006年)、『シュレディンガーの哲学する猫』(竹内さなみとの共著、中央公論新社、2008年)、『ねこ耳少女の量子論-萌える最新物理学』(PHP研究所、2009年)、『猫が屋根から降ってくる確率-世の中の出来事は猫と科学で解明できる』(実業之日本社、2014年)、『自分はバカかもしれないと思ったときに読む本』(河出書房新社、2015年)他多数。

動物ライター

加藤由子

かとう よしこ

動物ライター、エッセイスト。「ヒトと動物の関係学会」監事。1949年生まれ。日本女子大学卒。大学では生物学(動物行動学)を専攻。移動動物園などを経てフリーライターになる。動物、特にネコの生態や行動学に精通し、ネコに関する書籍などを多数執筆している。ネコ関連の著書に、『雨の日のネコはとことん眠い』『ぬき足、さし足、にゃんこ足』(共にPHP研究所)、『ネコを長生きさせる50の秘訣』(サイエンス・アイ新書)、『猫の気持ちを聞いてごらん』(幻冬舎文庫)、『猫式生活のすゝめ』(誠文堂新光社)、『猫とさいごの日まで幸せにくらす本』(大泉書店)、『猫の気持ちは見た目で9割わかる!』(大和書房)ほか多数。

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