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連載

第19回 上原正三「戦争と想像力」

わたしは琉球人である

上原正三(脚本家)

(構成・文/朴順梨)

 関東大震災の朝鮮人虐殺を、「帰ってきたウルトラマン」(1971年)の脚本に込めた上原正三さん。2017年6月には、戦中・戦後の沖縄に生きた経験を基にした自伝的小説『キジムナーkids』(現代書館)を刊行した。80歳を過ぎてもなお、若い世代に戦争と沖縄の歴史を語り継いでいこうとする原動力は何か。上原さんに話を聞いた。

 小池百合子東京都知事は、都立横網(よこあみ)町公園で今年(2017年)9月1日に開催された関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式に、都知事名の追悼文を送付しなかった。

 1923年9月1日に発生した関東大震災で、東京府内だけでもおよそ7万人もの人が亡くなっている。その際「朝鮮人が井戸に毒を入れている」などのデマが飛び交い、これを真に受けて結成された自警団などが、朝鮮人や中国人を虐殺した。内閣府が2008年にまとめた『1923関東大震災報告書』(内閣府防災情報のページ)にも「社会主義者と朝鮮人の放火多し」「朝鮮人、市内の井戸に毒薬を投入」などの流言があったこと、朝鮮人や中国人、そして琉球人や日本人への殺傷事件が起きたことが記されている。その模様は「虐殺という表現が妥当する例」が多く、犠牲者の正確な数はつかめないものの、震災による死者数の1~数パーセントに当たる人が殺されたとしている。
 東京で地震が起こり、流言により朝鮮人虐殺があったことは紛れもない事実だからこそ、石原慎太郎を始め猪瀬直樹、舛添要一と歴代知事は追悼文を送付してきた。小池都知事も昨年は送っている。にもかかわらず、東京大空襲の日に行われる3月の「都内戦災並びに関東大震災遭難者春季慰霊大法要」で犠牲者全てに追悼の意を表したからと、今年は送付をやめた。

 脚本家の上原正三さんに意見を求めると、「やっぱり、小池都知事は追悼文を出すべきだったのではないか」と語った。
「出さなかった理由は僕には分からないけれど、朝鮮人虐殺は歴史的な事実としてあるわけだから、そこを踏まえる必要はあると思うんです。そして数の問題ではなく、一人でも誰かによって殺されたら、それは虐殺だと思うんですよね」

いざという時に狙われる、マイノリティの宿命を描いた

 1966年に「ウルトラQ」のシナリオライターとしてデビューした上原さんは、その後特撮番組の脚本を数多く手掛けてきた。なかでも71年に放送された「帰ってきたウルトラマン」の33話「怪獣使いと少年」は、今もなお見た者の記憶に鮮明だ。

 内容をざっと紹介すると、北海道は江差出身の少年・良はまだ子どもなのに、一人で川沿いの廃屋に住んでいる。母親は亡くなり、父親は失踪して天涯孤独の良を、街の人は「宇宙人」と思い込んで関わろうとしない。時に年上の少年たちから凄絶ないじめを受ける良は、実は金山という中年男性を廃屋にかくまっている。金山こそがメイツ星人なのだが、事情を知らない大人たちは良を危険視し、ある日集団で襲いに来る……という話だ。
 首から下を土に埋められ汚水をかけられたり、雨の中食料を買いに行っても追い返されたりと(たった一人だけ、彼にパンを売る女性がいるが)、襲われる前も良は陰湿な仕打ちを受けている。それはひとえに、「あいつは宇宙人」だから。得体が知れないし、いつ攻撃してくるか分からないからやられる前に排除してしまおうとする“良き市民たち”の姿が、醜いまでに描かれている。この話のモチーフになっているのは、関東大震災時の朝鮮人虐殺だ。
「もう何度も話していることだけど、僕は琉球人だから関東大震災のようなことが起きたら、自分もやられるって思いがあったんです。それがマイノリティーの宿命というかね。だから『怪獣使いと少年』を書いたんだけど、良はあえてアイヌの血を引く設定にしました。なぜなら、琉球人も朝鮮人も実際に震災の時のデマで殺されているから。ウルトラマンシリーズは物語だから、震災時に殺されていないマイノリティーを選んだんです。でも過剰なまでに監督が映像を演出してくれて、脚本には書いてない『日本人は美しい花を作る手を持ちながら、いったんその手に刃を握ると、どんな残忍極まりない行為をすることか……』というセリフまで入れてきて。おかげでとても話題になったから、幸せな作品だと思っていますけどね」

自分は琉球人だと、ずっと思ってきた

 自身を琉球人と言う上原さんは、1937年に沖縄県那覇市で生まれた。5人兄弟の3番目で、父親は警察官。戦時中は父を残して家族は台湾を経て熊本に疎開し、終戦後の1946年に帰島した。
 当初は台湾から沖縄本島に戻る予定だったものの、台風の直撃で西表島に足止めされているうちに、那覇が空襲で壊滅されてしまった。船はアメリカの潜水艦と爆撃機を避けながらやむなく九州に向かったが、食料が尽きてケチャップを主食にせざるを得なくなった。それがトラウマになり今でも上原さんは、ケチャップが食べられない。
 たどり着いた熊本では、寺のお堂で同じく疎開してきた三家族と、身を寄せ合って暮らしていた。当時は大本営発表を信じきり、「お父さんは憎きアメリカと戦って戦果を挙げている」とばかり思っていたそうだ。しかし沖縄に残った実際の父は避難民を連れて、命からがら安全な場所を探し回っていた。腐った食べ物を食べ死体が浮かぶ池の水をすすり、必死に生きていたのだ。戦後再会した時には父は赤痢でげっそりと痩せ、すっかり白髪頭になっていたと語る。
「大本営発表は、すごい効力がありましたからね。みんなラジオの言うとおりに動き、一喜一憂するわけだ。でも今思うと、一憂はないんだよね。全部勝利の話だから一喜だけ。だから最後まで日本は勝っていると思ってたよ。それが突如1日で、玉砕と敗戦に変わったわけだから。もう何とも言えないよね(苦笑)」

 上原さんは沖縄戦とアメリカの占領下で過ごした日々を描いた『キジムナーkids』という小説を、2017年6月に出版した。構想20年、80歳を迎える年に生み出したこの作品は、全編にわたりウチナーグチ(沖縄の言葉)が使われている。その理由を上原さんは、「だって僕は琉球人だから」と語った。
「高校を卒業して大学に入るために東京に来た時、パスポートを見せて上陸したんです。その時に『あ! パスポートがなきゃ、僕はここ(本土)に入れないんだ。ということは僕は日本人じゃない、琉球人だ』と悟って。以来ずっと、そういう認識できましたから」

 『キジムナーkids』には、すぐに鼻水を出すから“ハナー”と呼ばれる主人公と小学校の同級生3人が、謎の少年“サンデー”やパンパンの“ハルちゃん”、ハルと組んでいる“アマワリ”たちと出会い、成長していく姿が描かれている。ハナーの友人“ポーポー”は1944年10月10日の那覇空襲で、“ベーグァ”は集団自決で、“ハブジロー”はハブ毒で家族を失っている。しかし彼らは悲しみを見せない。アメリカ兵に「ギブミー」をしてチョコレートを恵んでもらったり、配給所やアメリカ軍の倉庫から物資を盗んだりしては、「戦果」を味わいつくしている。その姿はどこまでも明るい。フィクションながらも“ハナー”は上原さん自身で、他の登場人物は家族や当時の仲間を思い浮かべながら書いたそうだ。アメリカ軍の占領下にあった沖縄は物資が不足し、戦後復興からも取り残されてきた側面がある。しかし上原さんは「だからこそ、伸び伸びと生きていられた」と振り返った。

「鬼畜米英と呼ばれていた連中は圧倒的な武力で勝ったのだから、これはもう逆らいようがないと認識していました。僕が脚本を書いた特撮テレビドラマ『宇宙刑事ギャバン』(1982~83年に放映)に『魔空空間』という異次元世界が出てくるんだけど、まさに占領下の沖縄は、ヤマトの手が及ばないアメリカによる魔空空間でした。でもそこで僕たちは琉球人として、卑屈になることなく伸び伸びと生きていられたんですよ。魔空空間ではウチナーグチを取り上げられなかったし、英語を強制されることもなかったからね。それに大人も子どもも『隙あらばアメリカからぶん捕ってやれ』とギラギラしていて、誰もいじけていなかった。そういう沖縄の人たちの姿を、物語で描きたかったんです。
 ポーポーは家族だけではなく右腕も空襲で失っていますが、僕の友達にも銃弾で腕を落とされた子がいました。設定を変えたりデフォルメしたりしていますが、このようにほとんどモデルがいます。だからなのか本が出た後、何人もの旧友から『このキャラクターは俺だろ?』と連絡が来ましてね(笑)」

今の沖縄は、アメリカと日本の両方に支配されている

 明るい子どもたちが描かれる一方で、女性たちはみな痛みを背負っている。ハナーの姉の“セイ”は疎開していたことで命を取り留めたが、同級生や友人の何人もがひめゆり学徒隊として犠牲になっている。セイは生き残ったことに後ろめたさを感じ、自分を責め続けていた。既に夫を亡くし、一人息子が召集されないように祈り続ける“オミト”は、出征後に営倉から脱出した息子を捜索隊から逃がすため、自分は艦砲射撃の犠牲になった。やはり艦砲射撃で家族を亡くしたハルは15歳で捕虜収容所に入り、わずか17歳でパンパンになった。そしてハナーが偶然目撃した名もなき女性の亡きがらは、全裸でアメリカ軍のゴミ捨て場に遺棄される。子どもは伸び伸びといられる魔空空間だが、女性にとっては地獄そのものではないかと思ってしまうほどだ。

著者情報

脚本家

上原正三

うえはら しょうぞう

1937年、沖縄生まれ。中央大学卒業。64年、「収骨」が芸術祭テレビ脚本部門で佳作入選。66年、「ウルトラQ」の第21話「宇宙指令M774」でプロデビュー。円谷プロを経て69年にフリーとなり、「帰ってきたウルトラマン」「がんばれ!!ロボコン」「秘密戦隊ゴレンジャー」「がんばれ!レッドビッキーズ」「宇宙刑事ギャバン」アニメ「ゲッターロボG」など多くの子ども番組でメインライターを務める。著書に『金城哲夫 ウルトラマン島唄』(筑摩書房、1999年)『上原正三シナリオ選集』(現代書館、2009年)『キジムナーkids』(現代書館、2017年)がある。2020年1月2日死去。

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