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連載

路上性売買問題、必要な対策とは?

仁藤夢乃(社会活動家)

 2025年6月、本連載が単行本にまとめられた『10代から考える性差別・性暴力──バカなフリして生きるのやめた』(新日本出版社)が出版された。来年は本連載を元にした2冊目の本も出版予定だ。

 イミダスで連載をスタートしてから10年以上が経った。新日本出版社から書籍化の打診をいただいた時は嬉しかったが、10年も前に書いた話が今の社会に響くだろうか、今出すことにどんな意義があるだろうかとも思った。しかし改めて本連載を読み返すと、今もまったく変わらない社会の構造と性搾取の実態があることに気づいた。

 この10年で、性売買の中にいる少女たちへの社会の目線は少しずつ変わってきているが、それでも未だに、性売買がなぜ、女性に対する人権侵害であり、性搾取なのかということを理解していない人がほとんどだろう。路上に子どもたちがなぜ出るのか、福祉や行政、学校や地域の大人たちは何をやっているのか、もっと多くの人が関心を寄せ、理解を深めていかなければ、頼れる大人を持たない子どもたちが搾取や暴力に行きつく社会構造を変えられない。

 だからこそ、伝え続けなければならない。すぐにはすべては理解されないかもしれないけれど、言い続けてきたことが、今だから社会に広く受け入れられるということもある。10年前から書き続けていた現実が、今の社会の問題を多くの市民に気づかせる説得力となることを実感している。

 長期間にわたり、現場からのレポートと少女たちの声を伝え続ける場をくださっているイミダスに改めて感謝したい。連載をスタートした時、私はまだ何者でもなく、社会的にもあまり知られていなかった。そんな私に「仁藤さんの見ているもの、考えていること、そのままを書いてください」と声をかけてくれた当時の編集長の江間繁博さんは、定年退職後もずっと私が主催するColabo(コラボ)の活動や発信を見守り続けてくれている。

 連載開始当時、虐待され、家出して、路上に出て、性を「買われる」少女たちの声を聞こうとする大人なんて、どこにもいなかった。私たちの声を聞こうとする人たちとつながる場をこの連載がくれたのだ。そのことは、確実に社会を変える力になってきた。

「買春処罰」がない日本に群がる買春者たち

 私自身が家に帰れず、夜の街をさまよっていたのは05年頃だが、25年が終わろうとしている今でも、路上をさまよう少女を気にかけ心配しているようなふりをして近づくのは、性搾取の加害者ばかりという現実が変わっていない。頼れる大人とのつながりを持たない少女たちに食事を与えるふりをして性行為を求めたり、家に囲い、寝泊まりさせる見返りに少女に売春させる加害者は、街中だけでなくSNS上にもあふれている。

 25年6月にも14歳の少女に売春させたとして、暴力団関係者を含む30代の男2人が逮捕された。この少女のことをメディアは「家出少女」と報じた。加害者は「金を稼ぎたかった」と話していたという。同時期に、小学6年生の少女に性的暴行をしたとして、23歳の男が逮捕された。男はインスタグラムで17歳の少女を装って接触し、 「家でゲームをしよう」と誘い出した。このような事件は全国で起きている。

 こうした事件がある度、テレビではコメンテーターは「なぜ、ついて行ったのか」と少女を責めたり、「SNSの危険性を教育すべきだ」などと、子どもに責任を押し付ける発言を繰り返してきたりした。なぜ、加害者たちの存在は、彼らによる性暴力は、仕方のないことのように扱うのか。

 25年は、日本では買春処罰がないことから安心して少女や女性を買うことができることが世界中で話題になり、円安の影響もあって、東京の新宿歌舞伎町には世界中から買春者が集まった。そのことが国会でも問題視され、11月には高市早苗首相が「買春処罰」に言及したが、問題は外国人客だけではない。今でも買春者のほとんどが日本人である。少女や女性の性を買うことを容認し、推奨し、男性たちが安心して、安全に性を買える社会状況を作ってきたことが、世界中から買春目的の男性を集める基盤を作っているのだ。

若年被害女性の報道とそこへ向けられる世間の目

 今年、タイ人の12歳少女がマッサージ店に囲われ、1カ月で60人以上の男に「買春」された人身取引事件が注目された。「12歳」という年齢を衝撃として受け止める声が多く聞かれたが、その歳の少女の買春被害は珍しいことではない。そのことを私たちは10年以上前から伝え続けてきた。16年に始めた企画展「私たちは『買われた』展」には、12歳から買春されてきた少女が参加しているし、今も私たちが夜の街で開催しているバスカフェを12歳の少女が利用することも少なくない。

 他にも、12歳の少女に対する性搾取事件の報道は続いてきた。それなのに、毎回新しいことを知ったかのように振る舞う世間に驚く。同じような事件は度々起きているのに、その都度忘れて、なかったことにしてしまうから、また次も同じように驚くのだ。

 私たちの見ている現実からすると、幼い少女たちまでもが買われることは日常だ。今でも児童買春は処罰の対象であるが、実際には、買春者が捕まることはほとんどない。そもそも、性売買の中にいる少女や女性たちは「被害者」ではなく、「非行者」として捉えられる社会の雰囲気がある。そのため、被害に遭っても少女や女性たちはそれを訴え出ることができない。

 25年7月には、売春防止法5条の勧誘等の罪に違反したとして4人の女性が逮捕された際、その様子を顔出し・実名で大手メディア各社が報道した。この報道にはショックを受けた。警察が記者に事前に情報をリークし、取材させているからできることだ。彼女たちは「インバウンドによる外国人観光客を狙った女性」で、数年間で1億円以上を得ていたとも報じられた。が、その金はすべてホストなど、搾取の加害者によって回収されている。

 そもそも、性売買で1億円を得るには、1人3万円と高く見積もっても3000人以上と性行為をしなければならず、それが女性にとってどれだけ負担であることなのか、誰も考えていない。そもそも、なぜ女性が性を売る状況にあるのかを報じるメディアはなかった。彼女たちの背景には、虐待や孤立、障害や子育てに加え、ホスト等からのグルーミングによる性搾取があった。性売買が女性に対する人権侵害であるという認識のある国では、彼女たちは処罰の対象ではなく、保護され、ケアされる権利のある存在だが、日本ではそうなっていない。

脱性売買のために必要なこと

 また、各社の報道では外国人による買春が問題とされ、彼女たちを買った男のほとんどが日本人であることには触れられなかった。私たちはすぐに抗議の記者会見を行い、その数時間後にはすべての記事が修正・削除された。もしあの時、私たちが抗議の声を上げなかったら、それ以降、被害女性が顔出しで実名報道されることが、この国のスタンダードになっていたかもしれない。

「外国人」による性売買が問題とされる中、今国会で高市首相が「買春処罰」に言及した。被害者の年齢にかかわらず、買春者と業者を処罰する法律を制定し、買春が人権侵害であるという認識を社会の共通認識にしなければ、加害者が加害しやすい状況はなくならない。そうしたことでの買春処罰は歓迎だ。しかし、高市首相は「売買春の根絶」という言葉を使っており、女性が罪に問われる規定は変えられず、脱性売買支援もないままに、買う側の処罰さえ行えばよいということにされないか心配している。現行の売春防止法では「売春」した側のみが処罰される。保護法益は、人権ではなく、性を売る女性によって乱される社会の風紀を守ることに置かれている。売春処罰はそのままに買春も罰する、ということでは本来被害者の立場にある女性たちの状況はよくならない。今も買われた女性たちが被害を訴えられないのは、女性が処罰の対象になっているからだ。本当の意味で被害者を保護し、支える仕組みを作ることが必要だ。

 すでにスウェーデンやカナダ、フランス、韓国などには、買春処罰と性を売る状況にある人の非犯罪化、脱性売買支援を行う法律がある。女性が性売買から脱することができるようにするには、そうした法制度こそが必要だろう。

著者情報

社会活動家

仁藤夢乃

にとう ゆめの

1989年生まれ。中高時代に街をさまよう生活を送った経験から、10代女性を支える活動を行っている。これまでに夜の街でのアウトリーチ、シェルターでの保護や宿泊支援、シェアハウスでの住まいの提供といった活動を展開。第30期東京都「青少年問題協議会」委員。厚生労働省「困難な問題を抱える女性への支援のあり方に関する検討会」構成員を務めた。TBS「サンデーモーニング」にコメンテーターとして出演中。著書に『難民高校生』(英治出版)、『女子高生の裏社会』(光文社新書)。

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