少女誘拐「なぜついていった?」と責める前に
仁藤夢乃(社会活動家)
連続して発覚した少女の誘拐事件
2019年11月17日、大阪府大阪市で小学6年生の少女が自宅を出たまま行方不明になり、6日後に栃木県内で保護され、誘拐容疑で男が逮捕された事件があった。マスコミ各社の報道によると、男はツイッターで少女と知り合い、SNS(会員制交流サイト)で少女に「半年くらい前に女の子が家に来た。話し相手になってほしい。うちに来ない?」とメッセージを送っていたという。
その後、少女はスマートフォンや靴を取り上げられ、「怖くなった」と容疑者の家から逃げて警察に助けを求めた。容疑者の家にいて保護された別の女子中学生は、6月に行方不明になった際、「しんどい」「少し自由にさせてほしい」などのメモを自分の部屋に残していたという。
11月27日には、兵庫県の女子中学生を約2カ月の間、借家に住まわせ誘拐したとして埼玉県警が別の男を逮捕している。ツイッターに家出を希望する投稿をした少女に対し、ダイレクトメッセージで「埼玉においで、勉強するなら養ってあげる」と言ったり、「同じ年の子が居候しているから相談にのるよ。生活費は出してあげるから生活を心配することはない」などと送信しており、その家には2人の少女がいたという。
11月29日には、愛知県の14歳の少女を自宅に住まわせたとして、東京都八王子市の男が逮捕された。男は「ワンルームマンションなのでベッドひとつなんです。なので、一緒に寝ることになりますが大丈夫ですか」などとメッセージを送り、少女を誘い出していた。
責める前にまず目を向けることは?
これらの事件が連続して明らかになった際、その都度「なぜ、知らない人についていったのか?」などと、少女を責めるような疑問やコメントが大きく報じられた。
子どもの誘拐事件が起きると、必ずといってこうした声が上がる。上げる側からすれば素朴な疑問かもしれないが、その実、被害に遭った子どもを責めること、ひいては子どもたちがより助けを求めにくい状況を作ることにつながる。そこには大人たちの想像力のなさ、背景への無理解が表れていると思う。
これらの事件について、子どもの問題として捉えて子どもに責任を押し付けるのではなく、私たち大人の問題として考えなければならない。その場合、目を向けなければならないことは2つあると思う。
1つは、少女が「家を出たい」と思った背景には何があったのか。困った時に身近な存在ではなく、ネットを通じて声を掛けてきた男性だけが頼りだと彼女に思わせてしまったのはなぜか。誘拐した加害者以外の大人が少女に接触できず、信頼してもらえなかったことを反省しなければならない。
もう1つは、少女たちを狙う加害者がいることだ。孤立した少女たちを探し、理解者や支援者のふりをして家に誘い込んだり、その後で性暴力を振るうなどして、少女が「困っている」状況につけ込む大人があまりにも多い。そのことに目を向け、そうした大人たちへの対策を考える必要がある。

加害者たちは孤立した少女を狙う
私は、虐待や性暴力被害に遭うなどした10代の女性を支える活動をしており、年間500人以上の少女たちと関わっている。家出をして、SNSなどを通して見知らぬ男性のところへ行って性被害に遭った少女にも毎年100人以上関わっているが、その多くが「家が安心して過ごしたり、ここにいたいと思える場所ではなくなったりした時に、周りの大人は助けてくれなかった」と話す。
大人に助けを求めようとしたり、友達や学校、児童相談所などに話をしてみたりしたけれど、適切に対応されず、大人を信用しなくなり、助けを求めることをしなくなった子もいる。そういう時に声を掛けてくるのは、手を差し伸べようとする大人ではなく、性的搾取などを目的とした大人ばかりだという現状がある。
家族の虐待から逃れるために家出を繰り返していたというある中学生の少女は、「(家出先で)声を掛けてくるのは男の人だけだった。中学生だって言ったけど、みんな体の関係を求めてきた」と話した。また別の少女は、「SNSに『家出しました。誰か泊めてもらえませんか?』と書くと、たちまち数十人の男の人から返信がある」と話す。彼女もSNSで知り合った男性のところを転々とし、性被害に遭ったことは数えきれない。
加害者たちは少女が孤立した状況を狙っている。今回の誘拐事件でも、周りに頼れる大人がいないと感じ、助けを求められずにいた子どもたちは、犯人が唯一の理解者であるかのように感じてしまったのではないか。そのぐらい追い詰められていたのではないか。危ないと分かっていても、それしか選択肢がなかったのではないか。以前、座間市で「死にたい」とツイッターでつぶやいた女性らが誘拐され殺害された事件で、加害者の元から逃げてきた少女も「死にたいと考えるぐらい追い詰められていたから、どうなってもいいと思っていた」と話していた。
こうした事件が発覚すると、大人たちは「SNSの使い方や危険を子どもに教えよう」などと張り切るが、そもそも「危ないからダメ」といった忠告に耳を傾けたり、危険を冷静に察知したりできるような状況にある子は、被害に遭うリスクが少ない。
社会の風潮が犯罪を後押しする
さまざまな報道の中で、そしてネット上でも繰り返される「なぜ、知らない人について行ったのか?」という疑問について言えば、顔が見える関係性の中でも、性被害に遭うことは多くある。性暴力の加害者は多くが近しい人であることが知られているように、知っている人だから安心ということではないはずだ。顔が見える関係性の中にも信頼できる人、そうじゃない人がいるように、ネット上でも信頼できる相手かどうかは、子どもたちも考えながらやり取りをしている。
ネットやSNS上で、直接会ったことのない相手とやり取りをしたり、友達になったり、恋愛関係になったりすることですら、今の子どもたちにとっては特別なことではない。ネット上でも、顔の見える関係性の中でも、少女たちを信頼させ、力になってくれる存在であるかのように見せることを手口として近づく加害者がいることに注目する必要がある。
子どもたちにSNSの使い方を教え、自己防衛させること以上に必要なのは、「本当に行って大丈夫かな?」と迷ったり被害に気付いたりした時に相談できる大人が身近にいることだ。しかし、こういった事件が明るみになった時に被害者である少女を責める声があまりに大きいと、子どもたちは自分を責め、被害を相談できなくなる。
社会の風潮は少女たちを孤立させ、「誰にも相談できない状況」を作る。それは、加害者にとって都合のいい状況となる。「あなたは悪くない」というメッセージを大人たちは何度でも繰り返し、当たり前のこととして発しなければならない。
加害者を放置し続けてきた日本社会
ツイッターなどのSNSを通して、多くの少女たちが被害に遭っていることは、警察などの統計でも知られている。子どもたちに身近なSNSも、加害者たちにとっては人目に付かず子どもたちに声を掛けやすい、都合のいいツールになっているのだ。しかし、そのような被害があると分かっていたにもかかわらず、これまで有効な対策のないまま、私たちは放置してきた。
よく「被害を生まないためにどうすればいいか?」と聞かれるが、被害は加害者がいなければ生まれない。そのためにも加害行為がどのように行われていて、どうしたら加害者を生まない対策ができるのかを検証しなければならない。そうして多くの加害者が存在し、加害しやすい状況が放置されていることや、加害者に対して社会の認識や制度が追い付いていない状況にあることを考え、加害させない、加害者を生まない仕組みを考える必要がある。
そういう仕組みを考えることなく、「SNSは危険だから使わせないようにしよう」「年齢制限を強化しよう」など、被害者の自由や生活を制限したり、被害に遭う人の年齢を制限しようとすることがよくある。しかし、それは大人が「対策をしている」というていを装って責任逃れをしているだけで、根本的な解決にはならない。加害者にとってみれば「18歳以上だから」「18歳以上だと思ったから」「14歳だとは知らなかった」などという言い訳が増えただけで、このような事件が起きる構造に目を向けた対策にはなっていないのだ。
防犯は加害しにくい社会作りから
海外では、SNS上で買春などを持ち掛けるアカウントを見つけたら警察に通報し、起訴されると通報者に報酬を出す仕組みを作っている国もある。それに対し日本では、加害者にも社会にも「犯罪だ」という認識がなく、法整備も追いついていない。
被害者が追い込まれないためには、大人に対しても子どもに対しても加害者の手口を学ぶ機会を作り、「危ないかも」「どうしよう」と思った時に相談できる大人が身近にいることが必要だ。そのためにも、私たち大人が被害者を責めることをやめ、子どもたちに信頼してもらえる大人になることが必要だ。
以前、電車内で痴漢に遭っていた6歳の少女を助けたことがある。その時、迎えに来た保護者は開口一番、「そういう時は防犯ベルを鳴らすのよ。どうして鳴らさなかったの」と少女に向かって言った。母親は「私が迎えに行かなかったから」と自分を責めていた。
悪いのは、防犯ベルを鳴らさなかった少女でも母親でもない。私は「あなたは悪くないよ。怖かったね。もう大丈夫だよ」と少女に伝え、保護者には、彼女は抵抗できない状況で恐怖で固まっていたこと、彼女を責めずにケアをしてほしいことを伝えたが、大人たちの対応を見て少女は「自分はいけないことをしてしまった」と思ったのではないかと思う。