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連載

もしも性暴力に遭遇したらどうする?

"ここがおかしい"

仁藤夢乃(社会活動家)

 大人たちが優位な立場や力を利用して、弱い子どもに性暴力を振るう事件が後を絶たない。つい先日(2018年8月1日)も、千葉県で小学校教諭の男が女子児童にわいせつ行為を働き、強制性交等の疑いで逮捕されたというニュースが報じられた。

 私は、そうした性暴力被害に遭いながら、誰にも言えず過ごしてきた少女たちと日々出会っている。加害者が様々な立場や「力」を持っているので、こうした犯罪が表沙汰になるケースはほんの一部だ。そのため、この国で日常的に行われていることを疑う人も多いが、大人たちが現実を知ろうとし、子どもをどう支えるか本気で考えなければならないと思っている。

 例えば最近、私は電車の中で6歳の少女がわいせつ行為をされる様を目撃した。その日のうちにSNSで発信したため、ご存じの人もいるかもしれないが、改めてイミダス読者の皆さんとも情報共有したいと思う。以下に一部始終を紹介するので、自分がこうした場面に遭遇したら、また身近な子どもが被害に遭ったら、どうするか考えてもらえたら嬉しい。

6歳の少女が電車内でわいせつ被害に!

 それは7月某日の午後、東京都内の渋谷駅からJR山手線に乗車していた時の出来事だった。車内にいた私の前を6歳ぐらいの女の子が通り過ぎた。その後すぐ、私の近くに座っていた男が彼女に小声で何か話し掛け、彼女の腰に手を当てて自分の隣に座らせた。そして、女の子の体や顔を撫でるように触り始めた。
 一瞬のことだった。女の子に「知っている人?」と声を掛けたら首を振ったので、「こっちにおいで」と言いつつ、その男と女の子の間に私が割り込む形になるよう、彼女に席を移動させた。本当は車両を変えたかったけれど、女の子も怯えていて動ける状態ではなかった。

 女の子に「怖かったね、もう大丈夫だからね」「どこまで行くの? 一緒にいるからね」と声を掛けてから、離れたところにいる自分のパートナーに「変なオヤジがいる」「子ども触ってた」「どうしよう 子ども守ったけど、オヤジ私の隣にいる 電車」「警察に言いたいけど」「子ども守る方が先だよね」「子どもに声かけて座らせて触ったから こっちおいでといった」「今代々木 山手線 ◯号車」「やばい」「けいさつよんで」「はやく」「次新宿で降りる」などとSNSで連絡し、警察に電話をしてもらった。

 その間も男はニヤニヤしながらこちらを見て、「可愛いね」などとつぶやいていた。周りの乗客も気にしていたので、助けてと目で訴えてみたけれど、誰も力になってくれなかった。たった数分間の出来事だったが、私も怖かった。声を上げて女の子に危害が及んだらとか、私にも手を出されたら――などと考え、どうしたらいいかすぐに判断できなかった。

 新宿に着く寸前、女の子の手をとって、近くにいた30代とおぼしきサラリーマン風の男性3人組の元へ駆け寄り、「あの人痴漢です。捕まえてもらえませんか」と声を掛けた。3人いれば捕まえられると思ってその人たちを選んだのだが、「いやあ、僕たちにもこれから仕事があるんで」と真顔で断られた。ショックだった。

 そこで別の男性に「あの人痴漢なんで捕まえてください!」と声を掛けた刹那、電車のドアが開き、問題の男はホームに飛び出して奇声を上げて走って逃げた。追い掛けたかったけれど女の子と手をつないでいるため私は走れず、「痴漢です! 捕まえてください!」と何度も叫んだ。ホーム上では人々が男を避けて道を開け、そこを男が逃げていく。

 大声で駅員を呼んだが、「痴漢ですか。ここから離れられないので、こちらまで来てもらえますか」と、後続電車の安全確保のためか、持ち場から動けないということで即座には対応してもらえなかった。

協力してくれた人はごくわずかだった

 車内には私たちの周りだけで20~30人の乗客がいて、そのうち数人は明らかに私たちに気付いていた。女の子が被害に遭い、私が助けたところも見ていたはずだ。新宿駅のホームでは、近くに100人はいたと思う。でも状況を察して男を追い掛けてくれたのは、2人の男性と、一昨日上京したばかりという23歳の女性だけだった。

 男を追っていった女性は、「人混みの中で、すぐに見失ってしまった」と言って戻ってきた。被害者の女の子の方は「◯◯駅まで行かないと……」と言うので、家族に迎えに来てもらえるか、または連絡できるかを聞いて母親に電話をした。

 警察が到着した頃には、加害者の男は既にいなかった。母親と祖母が迎えに来て、女の子はそれまで我慢していたものが溢れたように声を上げて泣いた。「怖かったよね」と言いながら、私も泣きそうになった。女の子はすごく怯えていた。

 その後で警察へ行って状況を説明した。担当の警察官は「強制わいせつ罪になる」と言ったが、女の子の母親は被害届を出さなかった。「娘は小学1年生で、通学にも慣れてきたから『もういいかな』と思って迎えに行かなかった。責任を感じています」と自身を責めている様子で、「犯人は許せないけれど、これからは娘を迎えに行くので大丈夫。もう二度と手を出されないようにすればいいことです」と言っていた。恐らく母親や祖母にとっても突然のことで、受け止めきれないところもあるのだろう。家族へのケアも必要だと改めて思った。

 母親は娘に「防犯ブザーを鳴らせばいいのよ」と教えていた。でも、小学1年生の幼い少女が、自分で自分の身を守るのは不可能に近いと思う。せめて何か身を守ったり、助けを求めたりする方法を――という気持ちも分かるが、いざとなると大人の私でも固まってしまうのだ。女の子も防犯ブザーのことは分かっていたんじゃないかと思う。そして、もしあの時に防犯ブザーを鳴らしていたら……果たして周りの大人たちは助けてくれたのか、そこも疑問である。

 私は女の子に「あなたは悪くないよ」「助けてくれる人もいるからね」と言った。母親と祖母には「すごく怖かったと思うので、しばらくはなるべくそばにいてケアしてあげてください。他にも被害に遭っている子がいるかもしれないので、学校にも伝えた方がいいと思います」と伝えたけれど、性被害に遭ったことによる影響やトラウマ、ケアについての情報、紹介できそうな団体なども咄嗟には思い付かず悔しかった。

後悔と恐怖だけで終わらせたくない

 私は日々児童への性搾取などの問題に関わる活動をしているから、子どもを狙った性犯罪が日常的であることを実感しているが、家族は「まさかこんな幼い子が被害に遭うなんて」とショックを受けていた。私たちの活動を多くの人が「日常からは掛け離れたものだ」と思っているとしたら、その人たちの周囲で子どもへの性犯罪が行われた時、気付いて適切な行動をとれるだろうか。

 私は、あの男は常習犯だと思う。犯行の様子が手慣れていて、とても自然だった。明日もまた誰かが狙われるかもしれない。男の写真を撮っておけばよかった。

 あの時、なぜ車内でもっと早く大きな声を出して協力を求めなかったのだろう? 別の車両に移動してから協力者を募ることもできたのではないか? などと考えてしまって本当に悔しい。男の顔が忘れられない。「その子を守れたのだから」と言われても、それでも。だって、今もあいつはニヤニヤしているかもしれない。

 交番を出た後、仕事に向かい、普通に取材を受けて高校時代の友人とお茶をして別れた。一人になると「車内にいたサラリーマン風の3人組は、なぜ助けてくれなかったのだろう? 目の前で幼い子が怯えているのに、なぜ? 車内にいた他の大人たちは、あの行為を目撃していた男性たちは、なぜ誰も助けてくれなかったのだろう?」という思いでいっぱいになって涙が出そうだった。

 私がホームで叫んだ時、声も体も震えていた。あんなに大きな声を出したのは、15歳の頃に夜道で後ろから男性に襲われて手と口を押さえられ、車に連れ込まれそうになった時以来だ。そして当時、電車通学していてしょっちゅう痴漢に遭っていたけれど誰も助けてくれず諦めていたこと、Colabo(コラボ)の活動を通してつながった、幼い頃に性被害に遭ったという女の子たちのことなどが思い出され、2度も電車を乗り間違えてしまった。

 ようやく帰途についたものの、電車内で隣に座っていた酔客のおっさんがもたれ掛かってきたのが、いつもより怖く感じられ車両を変えようとした。しかも、そのおっさんが突然大きな声で電話をし始め、大きな声と態度に萎縮して、降りる駅に着いてからも自分が今どこにいるのか一瞬分からなくなりそうだった。歩く気力もなくて、駅から家までタクシーで帰った。エレベーター内やタクシー車内で、見知らぬ男性と二人きりになることも、いつもより怖く感じた。

 私が過去の被害をいろいろと思い出したように、将来、あの女の子も何かのきっかけで今日のことを思い出すかもしれない。明日、学校に行く時、どんな気持ちで電車に乗るんだろう? 自分がされたことの意味を理解した時、今日のことをどう思うんだろう?

 目の前で性被害に遭っている子どもに、手を差し伸べない人たちばかりだったことが本当に悔しかった。居合わせた男の人たちには、ちゃんと助けて欲しかった。このエッセーを読んでくれた皆さんが、日常の中で「なんかおかしい」と少しでも思った時は、ためらわず子どもに声を掛けて欲しい。もし「痴漢です!」「助けてください!」と言われたら、力を貸して欲しい。

 そんなことが当たり前の社会になるために、できることを考えたいと思う。

「過剰」と言われても声を上げ続ける

著者情報

社会活動家

仁藤夢乃

にとう ゆめの

1989年生まれ。中高時代に街をさまよう生活を送った経験から、10代女性を支える活動を行っている。これまでに夜の街でのアウトリーチ、シェルターでの保護や宿泊支援、シェアハウスでの住まいの提供といった活動を展開。第30期東京都「青少年問題協議会」委員。厚生労働省「困難な問題を抱える女性への支援のあり方に関する検討会」構成員を務めた。TBS「サンデーモーニング」にコメンテーターとして出演中。著書に『難民高校生』(英治出版)、『女子高生の裏社会』(光文社新書)。

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