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連載

変革への闘い

「社会的連帯経済」への誘い18 「北摂ワーカーズ」自分たちの働き方、生き方をつくる

工藤律子(ジャーナリスト)

この連載をもとに再構成した書籍『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』が、集英社新書より2025年2月に刊行されました!

 2019年10月、木澤寛治さん(31)と友人の鈴木耕生さん(37)は、数年の準備期間を経て、若者たちの労働者協同組合「北摂ワーカーズ」(正式には任意団体)を、本格的に始動した。普通に企業へ就職することも、個人で起業することも欲しない若者たちの、新たな働き方への挑戦を取材した。

大阪北部の北摂地域を中心に活動する「北摂ワーカーズ」の組合員5人(左から鈴木さん、木澤さん、片山さん、山本さん、市野さん)と、古本屋を始める予定の仲間・森崎さん。(事務所にて)撮影:篠田有史

 

不幸しか待っていない社会

 2019年6月、私はある会合で木澤寛治さんに初めて会った。「生活の『ちょっと困った』 私たちにお任せください」。そう書かれたチラシを手に、木澤さんは労働者協同組合の形式で若者たちが働く場をつくる話を聞かせてくれた。
「とりあえず、組合員一人ひとりが月10万円くらい稼げれば生活は成り立つと思う」
 そう語る木澤さんは、配送や引っ越し、庭木の剪定など、生活のなかのさまざまな便利仕事を引き受け、仲間と分担しながら働いていた。企業に雇われて働くのではなく、地域の人とのつながりのなかから自分たちで仕事をつくり出す。木澤さんは、なぜそのような働き方にたどり着いたのか。
「僕は15歳で高校を中退して、大工である父親の仕事の手伝いなどをしていました。父親の“ひとり親方” という仕事のスタイルからは影響を受けたと思います」

北摂ワーカーズのリーダーとして、鈴木さんとともに活動を牽引してきた木澤さん。よつ葉ホームデリバリー大阪産直センターの役員も務める。 撮影:篠田有史

 中学の先輩が経営する外壁塗装の会社でも働いたが、その仕事のあり方は自営の大工とは異なっていた。元請け会社に気を遣いながら仕事をしなければならない「下請け」のしんどさを知ったという。高校中退だった木澤さんは、下請けとして働くなかで学歴社会の現実を目の当たりにし、高校の勉強をし直して大学へ進学する。
「大学で入ったサークルでは、仮設住宅でのコミュニティづくりを支援しながら、反原発の立場から原発での被曝労働の問題にも取り組もうとしていました。その活動を通して、(原発を含む)建設業界の重層的な下請け構造を明るみに出し、変えていきたいと思っていました」
 後に北摂ワーカーズをともに立ち上げた鈴木耕生さんとは、そのサークルで出会った。鈴木さんは、高校を卒業してから2年間カナダへ行った後、帰国して大学に入った。海外の貧困問題や国内の社会運動などに関わるうちに、豊かだと言われる日本が抱える問題に気づいたという。
「今の日本では、若者の多くが非正規で働いていると言われています。僕たちの世代は、保障も何もないまま、ただ社会に放り出されているんです」
 2人はそんな日本社会を、「不幸しか待っていない社会」と表現する。若者は孤立しており、生活のためにとりあえず採用された会社に入って過重労働や人間関係に悩まされるか、非正規やアルバイトの最低限の収入で消費を抑えて暮らすかという、追い込まれた状態の人が多数派ではないか、と話す。
 少しでも社会を変えるための影響力を持つにはどうすればいいのか。サークルでの活動に限界を感じながら模索するうちに、「自分たちが好ましいと思う仕事のあり方を具現化し、実際に自分たちで仕事をつくり出していく方がいいのではないか」と、木澤さんは考えるようになった。
 木澤さんに、労働者協同組合という働き方や事業のあり方にたどり着くヒントを与えたのは、NPO「関西仕事づくりセンター(以後、センター)」だ。センターは、リーマンショックが起きた2008年に、仕事の紹介や職業訓練などを行う組織として、複数の労働組合などが協力して設立された。設立に関わった組織とつながりのある個人・会社などからポスティングや引っ越し作業、農作業などの仕事を受注して、それを労働組合の組合員や野宿労働者らに紹介する「仕事づくり」の活動を通して、相互扶助を軸とする地域社会を築こうとしていた。
 センターから単発の仕事を請け負っていた木澤さんは「こういうやり方もあるのか」と気づき、自身の人脈を生かして、必要としている人に安定的に仕事を提供する活動を自ら行うようになる。そうした活動を事業化して立ち上げたのが、北摂ワーカーズだ。

庭木の剪定作業をする木澤さん(右)と山本さん。北摂ワーカーズ提供

 

人に合わせて仕事をつくる

 立ち上げにあたっては、関西一円で有機食品等の生産・加工・配送・販売を行う「関西よつ葉連絡会 よつ葉ホームデリバリー」をはじめ、センターに関わるさまざまな組織とのつながりが助けになった。
 現在、北摂ワーカーズが行っている事業は、「よつ葉ホームデリバリー」の配達ドライバーや剪定などの植木仕事、住宅リフォームなどの大工仕事、郵便物の回収や空気の入れ替えなどを行う空き家の見回り、若者の生活支援NPOの食料梱包・配達作業など、多岐にわたる。鈴木さんは、「北摂ワーカーズでは、事業を通してメンバーといろいろな人とのつながりが生まれています。そのつながりから、また新たな事業が生み出されていく」と話す。
 設立から数年間は、主に木澤さんが持つ人脈を通じて仕事を獲得し、それをメンバーで分担してきた。現在は、事業別に担当者を決めて運営しており、関わるメンバーの関心やニーズに合わせて仕事を増やしていくようにしているという。
「仕事のために人をつくるのではなく、人に合わせて仕事をつくるんです」
と、木澤さんは強調する。

ツツジの刈り込み作業をする山田遼介さん(29)。木の枝を使った芸術活動にも携わっている。(取材日は不在)北摂ワーカーズ提供

 そうした考えは、北摂ワーカーズが「労働者協同組合(労協)」方式で運営されているからこそ、生まれたものだろう。北摂ワーカーズでは、メンバー同士が雇う/雇われるという関係ではなく、「組合員」として全員が出資し、毎月5000円の「組合費」を納め、みんなで事業を動かしている。運営方針については、月1回以上行われる運営会議で全員で話し合って決める。月1回の会計会議では、組織の財政状況を確認し、仕事の報酬もその場で各自に手渡される。
 北摂ワーカーズは、その定款に謳っているように、「分断と競争に代わる、団結と協同の実践の場」、「民主主義の訓練の場」であり、活動を通して「自らの発展が社会全体の発展となるような、平等と協力を前提とした経済を求める」という理念で動いている。

つながりから生まれる仲間

 取材で大阪を訪れた日曜日の午前中、鈴木さんは「よつ葉ホームデリバリー」の依頼で店舗に棚を設置する仕事をしていた。定休日の店舗の前で、鈴木さんと最年少メンバーの片山千紘さん(27)が、あらかじめ用意された組み立て式のスチール棚を2つ組み立てていく。兄妹で引っ越し作業でもしているかのように、和やかな光景だった。

よつ葉ホームデリバリー「ふるさと広場 曽根店」で、棚の組み立て作業をする鈴木さん(右)と片山さん。撮影:篠田有史

 午後は、私用で来られなかった1人以外のメンバー全員が、この取材のために事務所に集まってくれた。若手3人は、木澤さんもよく知る大阪市北区中津のシェアハウスに関わったことがきっかけで知り合った仲間だという。

 市野新一朗さん(32)は、神戸での学生時代は政治に関心を持ち、反原発や集団的自衛権反対のデモなどに参加していた。好きな絵をかいたり旅をしたりするために2年間休学した後に、大学を卒業。企業に就職する同級生を横目にそうした生き方に疑問を感じ、アルバイトで働き続ける。そんな時に出会った木澤さんに植木の剪定の仕事をやらないかと誘われ、北摂ワーカーズに参加した。
「木工や植物などが好きなので、植木仕事にはとても興味がありました。何より協同労働、協同運営という理念で一緒に働いているという感覚が、魅力です。普通の会社に就職した友達は、社内の上下関係などに苦しんでいますから」
 今はプログラミングの訓練校に通っており、そのスキルを新たな事業につなげたいと考えている。

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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