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連載

突然の停電で数十万円 〜詐欺? ぼったくり? その一部始終に立ち会った顛末記

雨宮処凛(作家、活動家)

 このところ、詐欺の話を耳にしない日はない。

 それくらい、あちこちで詐欺事件が起きている。

 高齢者を狙う詐欺の手口は日々巧妙になり、ここ数年はSNSなどを使った「国際ロマンス詐欺」の話もよく報道されている。また、2025年11月にはヴィジュアル系バンドPsycho le Cému(サイコ・ル・シェイム)のseekさんが体験した特殊詐欺についての原稿が大きな反響を呼んだ(imidasオピニオン記事「ヴィジュアル系バンドマンと特殊詐欺グループの1カ月」、25年11月4日)。

 しかし、どれほどその手の話を聞こうとも「自分は決してひっかからない」という謎の自信が私にはあった。

 そもそも知らない番号の電話には出ないし、かかってきたらまず番号を検索するし、もともと疑り深い性格だし。特に私は大正生まれの祖母から「人を見たら泥棒と思え」と言い聞かされて育った身。日々詐欺の話を耳にしながらも、どこか他人事と思っていた。

 が、最近、「もしかして詐欺に遭った?」という経験をした。

 被害に遭ったのは友人だ。が、私はそこに居合わせた。非常に責任を感じている。

 事件が起きたのは3月初め。まだ寒さが残る日で、私はその日、友人宅で飲んでいた。近くに住むA子宅で、普段は店に行くものの、時々お互いの部屋で「宅飲み」するのだ。

 バチッという音と共に部屋が真っ暗になったのは、午後9時を過ぎた頃だった。

「え? なに? 停電?」「真っ暗!」

 2人でそう言いながらあたふたするものの、突然暗闇に放り込まれた酔っ払いほど無力なものはない。

「ブレーカーかな? 懐中電灯どこだっけ?」と言いながら立ち上がったA子はスマホで辺りを照らす。なんとか発見し、視界が狭い中、いろいろなものにぶつかりながら玄関まで移動。私も続いたものの、懐中電灯で照らしたブレーカーは一つも落ちていなかった。

「なんでだろ?」「周りも停電とか?」

 一通り考えられる可能性に思いを巡らせるものの、マンションの廊下を始め、窓の外を見ても他の家には電気がついている。

「少し待てば復旧するかも」と待ってみたものの、一向に電気がつく気配はない。ネットで「電気がつかない」などで調べてみるものの、ブレーカーを上げるくらいしか対処法はなく、今、役に立ちそうな情報は皆無。

「えー、信じられないほんとメンド臭い!」

 A子はそう嘆きつつ、「夜でも来てくれる業者探そっか」とスマホで検索を始めた。A子の部屋は賃貸ではなく買ったもの。また、これまでガスなどの不具合で管理会社に連絡しても、「自分で業者探して勝手にやって」といった対応だったため、最初から管理会社を頼るという発想はなかったそうだ。

 暗闇の中、スマホに照らし出されるA子の顔。その横で、「電気がないと生活は一瞬で詰む」という現実を痛いほどに思い知らされていた。

 まず、部屋が真っ暗。テレビもつかない。エアコンも当然使えないので部屋の気温は少しずつ下がっている。スマホやパソコンも充電できない。Wi-Fiも使えない。冷蔵庫の電源も切れているし、当然、洗濯機も掃除機も電子レンジも何もかも使えない。電気がないと、現代人はこれほど不安になり、喉から手が出るほどにそれを欲するものなのか――。被災経験のない私は、「電気」のありがたさを生まれて初めてくらいに深く感じていた。

「ここにかけてみる」

 A子は業者を発見したらしく、スマホ画面を見せてくれた。そこには「電気トラブル」「即日対応」「最短30分」などの言葉が躍る。今まさに、私たちが一番求めてるものではないか。

 電話はすぐにつながり、事情を話すと「そこから近い業者から改めて電話させる」とのこと。

「どれくらいかかるだろうね」などと話していると、すぐに電話がかかってきた。今から向かうとのことで、30分ほどで来てくれるという。電話を切った後、「よかった!」と喜びを分かち合う。

「でもいくらくらいかかるんだろ?」

 A子が少し不安そうな顔をした。深夜にすぐ駆けつけてくれる。それだけで「数万円くらいは取られそうじゃない?」と言うとA子は頷きつつ、「だけど電気つけてくれるならなんでもいい、多少お金かかっても仕方ない」と自分に言い聞かせるように言った。

 この時点で、私たちは30分近くを真っ暗闇の中で過ごしている。あるのは懐中電灯の灯りだけ。気温はどんどん低くなり、少しずつスマホの充電は減っている。今振り返ると、「このタイミングで悪質な業者などについて検索していれば……」と思う。しかし、この時はとにかくスマホの充電が減ることが怖かった。そう、「電気がつかない」だけで、人はこれほどに「普段できていること」ができなくなるのだ。そうしてちょっとしたパニック状態が続く。そんな中、判断力も思考力も急速に鈍っていく。

 が、そんな自覚もないまま、私は「このままA子を残して帰るわけにはいかないので、これは電気がつくまで付き合わないとだな」と静かに覚悟を決めていた。

 そうして約30分後、業者が到着。

 来たのは男性2人で、リーダー格とサブって感じだ。2人とも若く、リーダー格の方は20代後半くらいか。作業服姿で爽やかでハキハキしてて、だけどどこかヤンチャの名残がある短髪。一目見て、「神谷宗幣(そうへい)の若い頃」という言葉が頭に浮かんだ。顔は別に似てないのだが、体力ありそうで細マッチョで、若くして結婚して子どももいそうな感じが参政党党首を彷彿とさせるのだ。ちなみに私は支持者ではまったくないのだが、この人を便宜的に「カミヤ」と呼ぶことにする。もう一人はオタクっぽい青年だ。

 カミヤはさっそくブレーカーをチェック。そこが持参の照明で照らされ、カミヤは「ほうほう」「なるほど」などと言いながら確認している。

 私たちはリビングからその様子をうかがっていたのだが、「お客さん」とA子が呼ばれた。私も行くと、なんでも分電盤というものが壊れているらしく、その交換をしないと電気はつかないとのこと。交換するのであればできるが、最低でも15万円はかかるというではないか。それ以外にも深夜料金が発生するらしい。

 15万、という額に言葉を失った。が、A子は「わかりました」と即答。

 そうして分電盤の交換なるものが始まったが、途中、「外のメーターも開けないと作業ができない」とかなんとかで、廊下にあるメーターにA子が案内させられる。するとカミヤは「これを開けるだけで追加で10万円かかる」と、のたまうではないか。

 10万円!? ちょっと、なんか変じゃない? 顔を見合わせたが、A子は苦渋の表情で頷いた。

 今思うと、ここでいったん止めるという手もあっただろう。が、とにかくこちらは一刻も早く電気がついてほしい状態。明日の朝、別の業者を探すと言っても、スマホの充電がそこまで持つかという不安もある。それにA子は明日は午前中から仕事。昼間に業者に来てもらって立ち合うことなど明日だけでなく、週末までずっとできないとのこと。だったら今、せっかく来てもらっているのだからやってもらった方がいいだろう――。そんなことをA子は自分に言い聞かせるように私に言った。

 そうして電気が突然消えてから約3時間後、カミヤはA子を呼び出した。工事は無事終わり、あとは最後の工程を終えればすぐに電気はつくという。

「よかった!」

 A子と顔を見合わせると、カミヤは「それで工事代金なんですが」と神妙な口調になった。

「全部で、40万円になります」

 え……。

 静寂が辺りを包む。

「ご説明したように、分電盤の交換が最低でも15万円で、メーターも開けて、そちらの工事もしました。それに深夜料金が加算されまして」

 カミヤの声が、遠くに霞んでいく。業者を呼ぶとなった時、最悪10万円くらいはかかるかも、と漠然と思った。だけど40万円だなんて、そんな工事料金、聞いたこともない。だけど電気が突然消えてブレーカーも落ちてなくてどうにもならないなんて経験も初めてだ。

「そう、ですか……」

 A子が消え入りそうな声で言い、「わかりました」と続けた。このやりとりをしている時点で、部屋はまだ真っ暗だ。その時、気づいた。私たちは、今「文明」を人質に取られているのだと。同時に、ある光景を思い出した。それは2000年代はじめ、北朝鮮に行った時のこと。3度目くらいの北朝鮮行きで、普段は北京経由で飛行機で行くものの、その時、初めてシベリア鉄道で陸路で帰った。深夜、北朝鮮を走る車窓の風景は、人家の灯り一つない漆黒の闇だった。当時の北朝鮮はひどい電力不足だったからだ。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

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