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連載

女性議員の暴言とGGそしてBB

雨宮処凛(作家、活動家)

「このハゲーーーーーー!!」
「ちーがーうーだーろー!!」
「これ以上私の評判を下げるな!」
 元自由民主党(自民党)の豊田真由子衆議院議員(現在は無所属)の「絶叫暴言・暴行」が、世間を騒がせている。連日、メディアから流れてくる叫び声。報道を受けて、告発した人とは別の秘書まで「自分も同じことをされた」と証言したり、豊田議員を乗せたタクシー運転手が、態度のひどさを証言したりと、被害を訴える人は続々と増えている。
 悪質だと思う。ひどいと思う。特に小心者の私は、ああいった声を聞いただけで心臓がドキドキして、耳を塞いでうずくまりたくなる。秘書の中には、暴言や暴行を見聞きしていたことで、体調を崩して入院した人もいるという。暴力は、実際に被害に遭っていない人の心も深く傷つける。

「最悪の形」で全国の注目の的となった豊田議員だが、そんな彼女と私は一度だけ会ったことがある。インターネットテレビの「田原総一朗&堀江貴文の『スマホで“朝生”』」(2017年3月21日放送、AbemaTV)という討論番組で一緒になったのだ。人工知能などがテーマだったのだが、その日の討論は非常に抽象的で、番組終了後、エレベーターで一緒になった豊田議員から「もっとちゃんと雇用の話とかしたかったですよねー」と声をかけられた。
 その点はまったく同感だったので「そうですよねぇ」と頷いた私は、「今まで討論番組で会った自民党議員って、感じ悪い人ばっかりだったけど、初めて感じのいい自民党の人に会ったなー」という印象を持ったのだった。
 そんな豊田氏の、人が変わったかのような暴言。その「二面性」に驚きつつも、報道があった直後、自民党の河村建夫元官房長官の放ったコメントに、「さもありなん」という思いが込み上げてきたのだった。それは「たまたま彼女が女性だったからこうしたことになっているが、あんな男の代議士はいっぱいいる」というコメント。
 そうなのだ。あまりにも残念なことだが、永田町にはあのような暴言を吐く男性政治家が多く生息している。彼女はそれを見てきたのだろう。あの暴言や暴行は、政治という「男の世界」への最悪の形での「過剰適応」にも思えてくるのだ。

 そんなことを考えていたところ、虐待などの問題に詳しい女性と話す機会があり、豊田議員の話題になった。その人もやはり、「あの暴言は迫力や言い方も含め、彼女が言われてきたそのままのものではないか、そしてそれをコピーしただけではないか」と指摘したのだった。
 政治の世界に限らず、女性が何らかの世界で「のし上がる」には、多くのものを捨てなければならない、と多くの女性が思い込まされている。あそこまでじゃなくても、彼女のような暴言や高圧的な態度を見せる「成功した女性」「出世した女性」は、何人か見たことがある。一般企業で、女性初の役員クラス、みたいな立場の女性たちだ。
 男社会でのし上がっていくには、男以上に男勝りで「女を捨てないと」やっていけないと思わされているこの国の女性たち。女だからってバカにされないように、先回りして攻撃的にならなくては「舐められる」と学習してしまった豊田議員。
 そんな彼女は、私と同じ42歳だ。
 この世代は、「男女平等」と教えられて育ってきた。社会にはまだまだ様々なジェンダーの壁があるにもかかわらず、そういうことだという建前は学んできた。教えられてきたことと現実のあまりのギャップに、多くの女性が傷つき、怒り、だけど多くのことを諦めてきた。

 そんな中、東京大学卒で厚生省(現在の厚生労働省)にキャリア官僚として入り、その後ハーバード大学に留学して国会議員となった「エリート中のエリート」である彼女にも、突破できない「ガラスの天井」があったのだろうと思う。自然体で今の立場に就いていれば、あんな暴言など必要ない。だけど、適応するどこかの過程で「壊れた」のだろう。
 だからといって、彼女のしたことは許されることではない。が、多くの「名誉男性」的な立場の女性は、あのような壊れ方をしなければ生き残れなかったということを思うと、この国の女性が「普通」に「自分らしさ」を失わずに生きる難しさに言葉を失う。政治家にしても、女性管理職にしても、「自然体で生き生きと働く女性」のモデルは、この国にはあまりにも少ない。
 メディアに登場する少なくない「女性の成功者」は、豊田議員のような暴言を吐いていても不思議ではない、と思わせるような何かがある。対談などで多くの女性文化人と会うが、秘書やマネージャーといった立場の人に、端から見ると驚くほど厳しい対応をする人もたまにいて、小心者の私は自分が怒られているような気分になって辛くなる。
 さて、そんなふうに「立場ある女性」「成功したと思われている女性」があまり「幸せに見えない」この国だが(もちろん、素敵な人もいる)、その一方で立場やお金がある成功した男性たちは、屈託なく、「わが世の春」を謳歌しているように見えて仕方ない。

 そんなことを思ったのは、17年6月に創刊されたシニア男性向け情報誌『GG(ジジ)』(GGメディア)という雑誌を読んだからだ。
 創刊前から、いろいろと話題になっていた。何といってもこれを仕掛けたのは「ちょい不良(ワル)オヤジ」の名付け親で、男性向けファッション誌『LEON(レオン)』(主婦と生活社)を創刊した岸田一郎氏(66歳)。GGは「ゴールデン・ジェネレーションズ」の略。この言葉と「爺(ジジイ)」を掛け合わせて『GG』。「定年後は自由に生きたい」「まだまだモテたい」という50~60代を読者対象にしているという。
 創刊直前、この雑誌についての岸田氏へのインタビューが『週刊ポスト』(2017年6月16日号、小学館)に掲載されたのだが、ネット上で大きな批判が沸き起こったことをご存じだろうか。
 インタビューのタイトルは「『ちょいワルジジ』になるには美術館へ行き、牛肉の部位を知れ」。岸田氏は「美術館には“おじさん”好きな知的女子や不思議ちゃん系女子が訪れていることが多い」ので、そういう女子にうんちくを披露して、「ランチでもどう?」と誘うノウハウを披露。また、牛肉の部位を覚えておくことの重要さも強調。「ミスジってどこ?」と聞かれたら「『キミだったらこの辺かな』と肩の後ろあたりをツンツン。『イチボは?』と聞かれたらしめたもの。お尻をツンツンできますから(笑)」と語っている。

 このインタビュー記事には、当然、女子たちから悲鳴のような「キモイを通り越して犯罪!」「絶対通報する!」などの言葉が連発されたことは言うまでもない。が、怖いもの見たさで発売日に思わず購入。「金は遺すな、自分で使え!」というキャッチコピーが金文字で大書きされた『GG』の表紙をめくったところ、血圧が急激に上昇し、動悸、息切れ、めまいという症状に襲われたのだった。
 いや、いろいろすごかった。……っていうか、ここまであっけらかんと「モテたい」とか言えるジジ(『GG』ではジジイではなくジジと言う)って生きてて楽だよな、とちょっと羨ましくなったほどだ。
 感想を一言で言うと、とにかくジジに都合のいいことばかり書いてある。
 高級スポーツカーのランボルギーニを紹介する記事では、なんか小説っぽい文章が載っていて、その内容は以下のようなもの。
 ドライブ中、高速道路のパーキングエリアにランボルギーニを停めると、なぜか25、26歳の若い女が「お願い、乗せてください!」と車に乗り込んでくる。話を聞くと彼と別れたばかりで、そこから始まる若い女とのドライブ。その最中、「レインボーブリッジ、今は君のもの」とか言って悦に入るジジ。
 また「死ぬまで恋するレストラン」という記事では、神田の激セマ焼肉店が紹介されている。店が狭く、肉を焼く七輪を共有するため「恋が生まれる」とのことで、そんな焼肉屋で出会った女子二人を近くのラーメン屋に連れていくという展開なのだが、「中年男1人に女子2人」という組み合わせを「“艶ジジ”界では『3P飲み』と呼んでいます(笑)」という説明までご丁寧に入る。

 全ページに共通しているのは、恋がしたい、モテたいと言いながらも、彼らの視線は決して女子本人には向けられず、「若い女を連れ回してる俺様、カッコいい!」という「自分萌え」のみであるということだ。
 年齢に関係なく、こういう人といると、独りでいるよりよっぽど寂しかったり傷ついたりする。こちらの人格なんか何の関係もなく、ただ「年下の女」「若い女」という属性だけで連れ回す、自己満足の道具にしているからだ。だけど『GG』を読む世代って、まさにその程度の女性観の人が少なくない気がして怖くなる。頼むから、『GG』世代は下の世代に「男とは」「女とは」なんて時代錯誤な説教をしないでほしいと祈るばかりだ。
 さて、そんな『GG』は富裕層向けとかで「トチカツ」(土地活用)についての記事があったり、紹介されいてるパジャマが平気で8万円以上したり、何億円もする分譲型の豪華客船の船室が「終の住処(ついのすみか)」として紹介されていたりと、だんだん気が遠くなってくる。が、『GG』世代にはやはり「ED」という悩みもあり、名刺入れの中に潜ませることができるシートタイプのバイアグラなんかも紹介されていて、少しだけ気持ちがなごんだ。ちなみに誌面では、ところどころ「ぼけ(惚け)」にまつわるネタが笑いとともに出てくるのだが、表紙のジジモデルが持っている英語の本が逆さまなのは、来たるべき認知症を暗示しているのかもしれない。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

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