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連載

もしかして筋肉、好き?

雨宮処凛(作家、活動家)

 最近、女性誌を読んでいて、興味深い記事と出合った。
『臨死!! 江古田ちゃん』(愛読してます)の著者である漫画家の瀧波ユカリさんが、30代になって「筋肉フェチ」になった、というようなことを書いていたのだ。
 30歳過ぎて筋肉好き。それはまさに最近、私の身にも起きていることである。そしてそんな自分の「転向」ぶりに戸惑っていた時だけに、「ああ、30歳過ぎて筋肉フェチって、別におかしなことじゃないんだ……」と妙に安心したのだった。

 フェチと言っても、まだまだ目覚めたばかりの初心者。「もしかして私、筋肉好き?」と気づいたきっかけは、「マッチョな人が視界に入る」ようになったというだけのことである。それ以前は、筋肉隆々なだけでなんとなく引いてしまい、「異性」としてカウントしてこなかったのだ。
 では、それ以前は何フェチだったかと言うと、ガリガリで色白、中性的な上にやたら顔の彫りが深く、そのうえ影があって、なんか不治の病とか抱えてそうで、萩尾望都の漫画に出てくる美少年みたいな髪形で、「ドラキュラ役」とかがハマりそうで、「血を吐く」とか、そういう行為が似合いそうな人が好きだった。まあひとことで言うと、37歳にして現実がまったく見えていなかったというか、見ようという意志すらなかったわけである。

 しかし、そこは元バンギャ(ビジュアル系バンドが好きな女子の総称)。10代の頃にX JAPANのYOSHIKIや、BUCK-TICKの櫻井敦司といった「メイクをした美しい男」にハマりまくって過ごしてきたという刷り込みが強烈なだけに、どうしてもその対極にあるような「筋肉隆々」「ガテン系」「男汁100パーセント」みたいな方向の男性には、触手が動かなかったのである。
 しかし、最近、なぜか私の視界には筋肉がちらつく。というか、気がつけばマッチョな男性のムキムキした腕や胸板などに、じっと見入っているのである。しかも、「ちょっと触ってみたい☆」とか思っちゃっているのだ。
 これは、これはいかなることが私の身に起きているのだろうか! 私は今、初めて感じる種類の戸惑いの中にいる。

 そして、思った。
 男性のジャンルに「花言葉」みたいのがあるとしたら、以前、私が好きだった中性男子は「薄幸」とか「儚(はかな)い夢」なんてところだろう。
 が、筋肉男子からは「安定」「豪快」「実直」「単純」「誠実」なんて言葉が連想される。もうそのまんま「肉」とか「牛丼」とかもアリだ。
 しかも中性男子は食が細く、好き嫌いなんかも多そうで、そのうえ、手のこんだ横文字のオシャレな料理とかしか食べてくれなさそうなのに対し(完全な決めつけです)、筋肉男子のほうは、ただ肉を焼いただけの雑なメニューでも大喜びで完食してくれそうなイメージがある。絶対性格がいいに決まってるし(これも決めつけ)、まっすぐで純粋で、きっと一緒にいて楽に決まってる。

 と、ここまで書いて、気づいた。
 私は今、いろいろと疲れているのだ、たぶん。
 疲労の原因は様々ある。
 前回のエッセーで、私は女性誌のある種の「暴力性」について、書いた。1冊読み終わる頃には、「美しくなければ生きる資格などない」というようなメッセージを勝手に受け取ってしまい、勝手に心が折れそうになるという症状についてなどなどだ。が、私を追いつめるのは「美しい女性」だけではない。なんか最近、やたらと男子も美しくないだろうか??
 汚い男が増えるよりも、キレイな男が増える方が喜ばしいことだ。メンズエステなんかにも通っているのだろう。だけど、なんか個人的にはあんまりうれしくないっていうか、なんかあんまり、キレイになってほしくないのだ。

 最近も、あるビジュアル系ミュージシャンのブログを見ていて、そんな思いが込み上げてきた。私の脳内で完成されている中性男子にリアル世界でもっとも近いのは、ビジュアル系バンドの若きイケメン。ということで「理想の中性男子」をひと目見ようと、たまにライブに行ったりしているのだが、彼らはなんかもう、心が折れそうになるほど肌がキレイなのである。
 そこまでだったらいい。だけど、彼らはブログなんかで「明日のライブのために」とか書きつつ、なんかやたらと高級そうなパックの写真をブログに載せたり、体脂肪なんて1%もないような体なのに、体形に気を使って食事制限していたり、お肌のことを考えて禁煙したりと、「美容」に命をかけているのである。

 そんなものばかり見ていると、「昨日もさんざん焼き肉を食らい、ビールのあとにマッコリを飲んだうえに、女子2人でワインを2本空け、泥酔してメイクしたまま寝てしまった自分」が、もう女の風上にも置けないような気がしてくるのだ。
 そうして、そんな「美容男子」をどこかで「すごいな」と思いつつも、微妙に追いつめられ続けた結果、突如として私の視界に「筋肉」が入るようになったのである。
 ということで、いろいろと疲れた私は、晴れて「筋肉」デビューと相成った。
 このまま行ったら、ゆくゆくは「デブ」デビューとか「ハゲ」デビューとか、そんな展開になっていくかもしれない。
 が、美しすぎる男子より、「一緒にいて楽そう」な男子に目が向いたことは、何か「成長」のような気がして、ちょっとうれしいのだ。私はやっと、「現実」に着地しようとしているのかもしれない。

次回は2月7日(木)、テーマは「ウソ」の予定です。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

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