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常識を疑え!

「ニュース女子」問題はなぜ深刻か?

香山リカ(医師)

 東京のローカル局、TOKYO MX が1月2日に放送した「ニュース女子」という番組が大きな社会問題となっている。毎回、特集が組まれるのだが、この回は「マスコミが報道しない真実」。沖縄の東村高江で米軍の基地建設に反対している人たちを取り上げ、現地レポートで「逮捕されても生活に影響がない『シルバー部隊』」「(取材のために近づくと)襲撃される」と揶揄(やゆ)したり「(反対派は)救急車も止めている」と地元住民に語らせたりした。それを受けてスタジオでは、「日当をもらっている」「韓国人はいるわ中国人はいるわ」「沖縄の大多数の人は基地反対ではない」といった“トーク”が繰り広げられた。

 これらはネットで繰り返し語られている“デマ”や極端に誇張された噂話であり、私も実際に昨年(2016年)、高江のヘリパッド建設反対現場に足を運んだが、そこで見たり聞いたりした現実とは大きく異なっている。この放送のあと、ジャーナリストが現地に赴きひとつひとつの真偽を確認しているが、たとえば「救急車を止めた」という件にしても、高江地区の消防は「そうした事例はない」と否定したそうだ。

 テレビなのだから、多少は事実を面白おかしくゆがめることもある、と言う人もいるかもしれない。しかし、この問題には“当事者”がいる。それは、辺野古や高江で「子どもたちに平和な沖縄を残したい」と地道に反対運動をする住民たちだ。ネットに公開されている放送を見た沖縄の住民たちは、「私たちをどこまでバカにすればよいのか」と怒り悲しんでいる、と現地から戻った人から聞いた。また、この放送で反対運動の「黒幕」とされた市民団体の代表は、市民からかき集めたカンパが5万円たまるたび、高江に行きたい、報道が少ないので自分が市民メディアとなって伝えたい、という人たち16人に交通費として補助していた。その要項はすべて公式サイトなどで明らかにしていたにもかかわらず、番組では「財源は何か」などといかにもウラがあるように語られたのだ。その団体の代表は大きなショックを受けながら、「沖縄の人たちが傷つけられるのは許せない」と声明を出したりテレビ局に抗議文を送ったりしている。

 TOKYO MX の「放送番組の基準」にはこうある。「政治、経済、社会生活上の諸問題は公平、公正に取り扱う。意見が対立している問題については、できるだけ多角的な観点から情報を提供する」。この番組のスタジオに「あなたたちの言っていることはデマだ」と主張するコメンテーターがいればすむ話ではないが、最低限の公平、公正性も多角的な視点もまるでないまま流されたことは言うまでもない。

 ここまでの問題が起きれば、通常であればテレビ局は独自に調査を行い、少なくともすぐにデマとわかる「日当」「あやしい資金」「反対派が襲撃」といった部分については「真実ではなかった」と認め、謝罪するはずだ。同じく同局の「放送番組の基準」には、「放送が真実でなかったり不適切だったことが判明した時は、できるだけ速やかに明確な訂正、取り消しの放送をすると共に再発防止に努める」とも書かれているのだ。しかし、これまでその動きはなく、番組の最後に「今後も様々な立場の方のご意見を取り上げる」といった内容のメッセージが静止画で流れただけだった。

 実はこの番組は同局が制作したものではなく、DHCシアターという別の会社が作り、持ち込んだものだ。そのため内容について局がすぐには言及できないのだろうか。だとしても、放送した責任主体は局であり、一刻も早く内容の調査、関係者のヒアリングなどを行って、毅然とした対応を取ってほしい。

 いまは新聞、雑誌、ネットメディアなどがこの問題を取り上げているが、もしこのまま沈静化してしまうようなことがあれば、今後、東京でもデマを「ニュース」として流す番組がどんどん作られる事態になるかもしれない。アメリカでは新大統領の就任とともに、テレビ局やジャーナリストが名指しで「偽ニュースだ」と批判されたり、大統領側の提示することが「オルタナティブな事実だ」と主張されたり、とカオスのような状態となっている。日本もそれに巻き込まれてしまうのか。ここはなんとか「デマやヘイトをテレビで流さない」という原則を保つため、踏ん張り続けてほしい。当然、私たち視聴者サイドも「おもしろければなんでもいい」といった投げやりな姿勢にならず、「本当のことを知りたい」とテレビに高い水準の要求を行い続けるべきだ。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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