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常識を疑え!

若者はなぜバイトで“悪ふざけ”をするのか?

香山リカ(医師)

 コンビニや飲食店に勤務するアルバイト店員による“悪ふざけ”が相次いでいる。

 最近では、宅配ピザチェーン店のアルバイト店員が、ピザ生地をべったりと自分の顔に貼りつけて撮った写真を、ネットの投稿サイト「ツイッター」に掲載していたことが明るみに出た。ツイッターには「この店はもう利用しません」といった批判コメントが相次ぎ、チェーン店を経営する法人がホームページで謝罪した。謝罪文によると、使われたのは「廃棄食材」で「食材がお客様にご提供されることは一切ございませんでした」ということだが、「食品を扱う立場として断じてあってはならない行為であると深く反省しております」と述べている。

「アルバイト先での悪ふざけやいたずらは昔からあった」という声もある。アルバイト店員は一般に高くない時給で、目いっぱい働かなければならない。体調を崩しても休業補償などはなく、いわゆる“使い捨て”。店によっては、ストレスでいっぱいの店長などからいじめの標的にされたり、クレーマーのようなお客さんからの苦情対応を命じられたりすることもある。そんな中で「もうやってられないよ」と不満がたまっているアルバイト店員たちが閉店後などにちょっとした“悪ふざけ”でうさを晴らす…。たしかにこんな構図は昔からあったに違いない。

 しかし、昔のうさ晴らしは、あくまで仲間うちだけのものであった。また、なるべくお客さんなど無関係な外部の人には迷惑をかけないように、といった配慮もあったであろう。

 ところが、ツイッターなど自分たちの日常を簡単に世界に公表できるツールを手に入れ、彼らの生活の質は根底から変わった。いいことにつけ、そうでないことにつけ、いわゆる自己満足、仲間うちの満足では飽き足りなくなったのだ。自分がやったことを広く世間にアピールし、不特定多数の人たちから「いいね!」などと認めてもらって、はじめて満足感を味わうことができる。自己承認を受けなければならない範囲が、格段に広くなってしまったのだ。

 もちろん、直接、顔を見ていない大勢の人たちからも「すごいな」「おもしろい」と言われるのは、気持ちのよいことかもしれない。自分の魅力や影響力を確認し、自信が高まることにもなるだろう。

 ただ、その一方でそういった行為によって批判や非難にさらされるかもしれない、というリスクも伴う。知っている人であれば、多少のいたずらでも「ああ、彼は本当はやさしい人だからね」と大目に見てくれるかもしれないが、まったくの他人となればそうはいかない。先のピザチェーン店の件でも、「廃棄用の食材だった」「撮影されたのは閉店後」といった事情はツイッターの写真と短いフレーズだけではまったく伝わっていなかった。

 もし、こういった悪ふざけの本質に「労働環境の悪さに対する不満」があるのだとしたら、それは写真撮影や投稿では解決しない。たとえ何千人から賞賛されてちょっとしたヒーロー気分が味わえても、明日も職場では厳しい労働などが待っているだけだ。それよりも直接、経営者などに「仕事量が多すぎる」「いまの人数ではこなしきれない」といった要求をするほうが、満足のいく結果につながるのではないだろうか。

 しかし、大学で学生たちにそんな話をしたら、「言えるわけない」「不満を口にした段階でクビ」という反応が返ってきた。不満をつのらせるアルバイト店員と、それに対して聞く耳を持たない雇用主。実はいちばん大きな問題はそこにあるのではないか。この問題、シンプルなようでいてなかなか奥が深い。引き続き考えてみたい。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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