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連載

常識を疑え!

情報収集はなぜむずかしいのか?

香山リカ(医師)

 雑誌に「ウィキペディアを信用しすぎるな」という記事が載っていたので、学生たちにも読ませた。百科事典なみの項目数、情報量のウィキペディアはたいへん便利だが、誰もが匿名で執筆、編集できるため、情報の信頼性には以前から疑問の声が上がっていた。それにもかかわらず、学生の中には「ここにある情報は真実」と信じて疑わず、卒業論文にも堂々と「出典ウィキペディアより」などと記して引用する人もいる。

 記事を読ませると、学生の中にはウィキペディアのシステムを知らなかった人も多く、「そうだったんだ!」と驚いていた。ただ「学生レベルでは多少、信頼性が低くても使用してよいのではないか」という声もあった。

 そういう学生たちに私は、ウィキペディアにある「香山リカ」という自分の名前の記述を見せた。その中にはいくつも誤情報が記されているのだが、きわめつけは「占い師」という肩書が記されていて、手が込んだことに「香山リカの恋愛占い」という別サイトへのリンクも張られている。もちろん私には占いはできず、その占いサイトもまったくのでっち上げなので、誰かがいたずらか悪意の気持ちでそうしたのだろう。

 目くじらを立てるほどのことはない、と思ってそのままにしていたのだが、地方に講演に行くと司会者がこれをそのまま印刷して読み上げたり、印刷物にして配布したりすることがあるのがわかった。演壇に立って、司会者が「えー、カヤマさんは精神科医にして占い師であり…」と紹介するのを聴きながら冷や汗を流したことも、一度や二度ではない。

 あまりの迷惑に何度か削除依頼を出すなどして消してもらったこともあるのだが、気がつけばまた復活している。よほど「精神科医だなんて名乗ってるけれど、オマエのやっていることは当たらない占いといっしょ、デタラメだよ」と言いたい人がいるのだろう。最近は削除もあきらめた。

 学生にそんな話をしたら、彼らはようやく「正確じゃない情報どころか、意図的にウソも混じっているとは」と“信頼性の低い情報”の持つ危険性に気がついたようだった。しかし、「じゃ、ニュースや情報はどうやって手に入れるのがいいと思う?」ときくと、また言葉に詰まる。「新聞やテレビはダメですよ、都合のいい情報だけ選別したり、主観的に見出しをつけたりしてるんだから」「やっぱりネットかな、でも今みたいな話を知っちゃうとね…」。

 それからいろいろ議論する中、「やっぱりナマの情報に触れるしかない」という声が上がったので、パソコンで電力会社や県知事の記者会見、沖縄米軍基地前での抗議行動などを編集なしで最初から最後まで中継しているサイトを見てみた。たしかにそこにはウソはなく、“そのまま”が映し出されている。

 しかし、それをすべて見るにはたいへんな時間と労力が必要だ。また同時にいろいろな中継が行われているので、ひとりで見るのは物理的に不可能だろう。それに、自分で見たことを人に伝える際にはまとめたり端折ったりするわけだから、そこで正確さの精度が落ちてしまう。

 最近、マリー・アントワネットを取り上げるテレビ番組に出演する機会があったのだが、フランス革命以前の人々のウワサの伝播能力の高さに驚いた。昨日、べルサイユ宮殿の中で起きたできごとが翌日にはパリ市中にまで広がっていることもあったようだ。「結局、最後は口コミか」と思いながらも、便利なネット検索もやめられない。何が信頼できる情報源なのか、手段が多すぎてよくわからない、という何とも皮肉な事態に、現代人の私たちは直面しているようだ。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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