imidas - 情報・知識&オピニオン

連載

常識を疑え!

なぜ一日のリズムが整わないのか?

香山リカ(医師)

 オリンピックの期間中、あちこちで聞かれた「寝不足で…」という声。後半、メダルラッシュで盛り上がったこともあり、「会社から帰って即、仮眠を取り、夜中に起きて観戦して、また短時間睡眠」とかなり無理ある生活を送った人も少なくなかったようだ。

 いや、オリンピックがなくても、日ごろから不規則な生活を送る人は少なくない。とくにネット時代になり、私たちの生活は確実に「24時間いつでもビジネスアワー」へとシフトした。学生にきいても、ほとんどが枕元に置く携帯電話の電源は就寝中も切らずに、メールの着信音がすると飛び起きて、その場ですぐに返事を書くのだという。「毎日が当直業務」という感じだ。

 しかし、残念ながら私たち人間のからだは、そのような生活を送るようにはできていない。

 夜更かしをしたり断眠がちだったりすると当然、トータルの睡眠時間は短くなるのでその分、朝の目覚めも遅くなる。とはいえ、仕事や学校があるときはいつまでも寝ていられないので、無理してでも間に合う時間に起き上がる。そうすると日中は頭が働かず、昼休みや会議の時間などについウトウト。そして、退社時間が来る頃にようやく頭がスッキリしてきて、結局はその晩もまた夜更かしすることになる。

 日本にいながら、まるで「時差」のある生活を送っているようなこの状態を、医学的には「睡眠相遅延症候群」と呼ぶ。脳の中の松果体という部分から分泌されるホルモンなどが「眠りと目覚め」のリズムを調整し、いわゆる「体内時計」の機能ができあがっていると考えられているが、そこがすっかり働かなくなっているのだ。

 重症になると、大量の光線を当てて「体内時計」をリセットしたり、このリズムを調節する鍵を握るとされるメラトニンというホルモンを調節する薬を使ったりすることもある。

 しかし、基本はなんといっても「規則正しい生活と睡眠」、これに尽きる。いくら世界を相手にビジネスをする多忙な人であっても、「2時間ずつ3回眠ればOK」とか「3日に一度、10時間の睡眠で大丈夫」ということは不可能。21世紀のいまでも、人間のからだは「夜眠って朝起きる」「睡眠時間は6~8時間」と原始時代とあまり変わっていない。

 それなのに、コンビニやネットにより実現した「24時間いつでもビジネスアワー」に依存しすぎて、自分までなんだか24時間を思い通りにコントロールできるような錯覚を抱いている人もいる。「えー、私が睡眠相遅延症候群? クスリや通院が必要なんですか。でも先生、私の場合、仕事が深夜まであるんで…。自分の時間ができたときに、早朝でも真夜中でも、いつでも診療に応じてくれる、そんな病院を紹介してくれませんか?」。こんな患者さんがやって来たときには、「躁病でもないかぎり、そんな生活は不可能です。そうやって自分の時間やからだはまるごと自分のもの、と思い込みすぎているのが、あなたの不調の原因ではないでしょうか」とはっきり言ってしまった。

 さて、「オリンピックのメダルラッシュで寝不足だ」とうれしい悲鳴をあげていた夏も終わり、これから穏やかな気候の秋がやって来る。いにしえの人になったつもりで、「月が輝く夜もかなり更けてきた。今宵は虫の音でも聴きながら、早めに床に入るとしよう」とテレビやネットを消して、静かに眠りの世界に入っていく。そして、さわやかな朝の訪れとともに、「ああ、よく眠った」とのびをしながら覚醒の世界に戻る。そんな“人間らしい眠りと目覚めのリズム”をぜひ取り戻し、からだと脳を休ませてあげたいものだ。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

関連記事

新着記事

imidasの更新情報をお届けします。