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常識を疑え!

小沢一郎氏はなぜ入院したのか?

香山リカ(医師)

「なぜ入院したかって、尿管結石の発作が起きたからだろう?」という声が聞こえてきそうだが、ここは少し深読みをしてみたい。

 その素顔が見えにくい小沢氏だが、「突然の入院」ははじめてではない。今から20年前には「狭心症の発作」ということで今回と同じ日本医大に40日あまり入院している。
 また、2006年9月、党大会で代表に再任された後にも、「心臓に不安を感じた」と入院。このときは10日あまりで退院しているが、結局、検査では動脈硬化以外の新しい病変などは見つからなかったようだ。

 入院ではないが、それ以上の唐突な行動を取ったこともあった。07年11月の「大連立構想問題」の時には、連立に傾いたが党内で拒否されて代表辞任を表明、慰留されて辞任を撤回、と事態は二転、三転。このとき小沢氏は、「(代表就任以来)体も精神面も、かなりくたびれていた」「(連立を拒否され)気力を張りつめていたものが途切れたというか、ぷっつんした。そのため、これ以上、表に立っていれば党に迷惑をかけ、国民に迷惑をかける。けじめをつけなきゃと心がいっぱいになった」(asahi.com 07年11月7日付)と、疲労感や無力感を強く訴えた。

 そして、今回はまさに自身の「政治とカネ」の問題をめぐっての初公判のその夜に、ダウン。

「剛腕」と言われ、タフの代名詞のように言われている小沢氏だが、実は心身ともにかなり繊細な部分もあるようだ。さらに、それをギリギリまで表に出さず、ある地点に達すると急に「ぷっつん」して入院、雲隠れ、辞任など唐突な行動に出る傾向もある。

 もちろん、小沢氏ともなればその背負っているものも大きいだろうから、それなりに疲労困憊するのはよくわかる。しかし問題は、そういったストレスを日ごろから小出しに発散することが苦手で、閾値を超えたところでいきなり大きな影響が出ることだ。

 一時、日本のビジネスマンにはこういうタイプ、つまりふだんは「いくらでも働けます」と長時間労働に耐えて仕事をし、まわりにもつらさを見せることもないのに、あるとき突然、ストレスが高じて胃潰瘍や狭心症などの重大な疾患が発生、という人が多いと話題になったことがある。「ストレス?とんでもない」と弱音を吐かない彼らは、「失感情症アレキシサイミア)」と呼ばれることもある。

 小沢氏は、もともと義理人情にもろいタイプで、この失感情症気質ではないと思われる。しかし、あまりに権力闘争や選挙戦略などを重視しすぎるために、いつの間にか「素直に感情を表すのは負け」という価値観がしみついてしまったのだろう。そして、この後天的に作られた失感情症のため、たまりにたまったストレスがある日、からだや心を攻撃して、強い心臓や腰の痛み、あるいは「ぷっつん」の末の辞任表明などに至ってしまうのだ。

 小沢氏には、ぜひふだんからもっと自分の感情に素直になり、それを表現してみるよう、おすすめしたい。趣味の囲碁もよいが、からだを動かしてストレスを発散するようなスポーツにも挑戦してはどうだろう。

 そういえば、連立構想で「ぷっつん」した直前には愛犬が亡くなり、そのときばかりは小沢氏はひと目をはばからず涙を流したと言われている。おそらく、愛犬にだけは“本当の自分”を見せることができていたのだろう。その後、また2匹の犬を飼い始めたそうだが、これからは動物にだけではなくて、誰か生身の人間に「オレ、今こんな感じなんだよね」とハラを割って話してみてはどうだろう。「余計なお世話だ」と一笑に付されてしまうだろうか。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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