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常識を疑え!

大卒者の2割はなぜ進路未決定なのか?

香山リカ(医師)

 今春大学を卒業した人のうち就職した人は、61.6%。一方、進路が決まらなかった人は、19.4%にあたる10万7134人。こんな調査結果が文部科学省から発表された。

「え?5月頃、新聞で『今年の大学卒業生の就職率は91.1%』という数字を見た覚えがあるんだけど…」と、不思議に思う人もいるかもしれない。この厚生労働省と文科省の合同調査による「就職(内定)率」というのは、あくまで「就職希望者」を分母にした場合の「就職決定者」の割合を表しているので、実際の卒業者の就職率とは開きが出てきてしまうのだ。「進路が決まっていないといっても、バイトや派遣の非正規雇用では働いているわけだろう?」という考えも甘い。10万人を上回る進路未定者の内訳を見ると、いちばん多いのは「アルバイトなどもしていない」の8万7988人なのだ。

 それにしても、この数字は深刻だ。自分の子どもがめでたく大学入試に合格したら、たいていの親は「これでなんとか就職もできるだろう。子育てもそろそろ卒業だな」とほっとするはずだ。祖父母の年代の人たちは、「孫は勉強が好きだから、大学院に行って研究者になりたい、なんて言い出したりして。いや、けっこうマジメだから、公務員も向いているかも」とあれこれ夢見るかもしれない。

 ところが、55万人あまりいる大学卒業者のうち、11万人近くは大学院に進むわけでも就職が決まるわけでもなく、卒業式の日を迎えるわけだ。「5人にひとりが未決定」となれば、わが子がその中に入ったとしても少しもおかしくはない。「大学まで出ても仕事につけない」という状況は、ひと昔前にはまったく考えられなかった。

 なぜ、こんな事態が訪れたのか。もちろん、最大の原因は「雇用の悪化」だ。構造改革による非正規雇用の割合の増加、合理化に伴う人員削減、そして企業の海外転出。仕事が増える要素はどこにもない。団塊世代の大量定年退職により若い人の雇用が改善するのでは、という期待が持たれたこともあったが、企業も新人を一から鍛えるだけの体力がなくなり、募集がかかるのは「経験者」ばかり。団塊世代が抜けても補充を行わずに、人員の自然削減に向かう企業も多い。

 一時、起業ブームが起こり、「就職できないなら仕事を創ればいい」という気概が若い人のあいだで高まったこともあった。実際に、IT関連ビジネスを中心に自分たちで会社を立ち上げ、がんばっている人たちもいる。しかし、景気の地盤沈下が進んだところに東日本大震災が追い打ちをかけ、「やっぱり大手にはかなわない」といった失望感が一気に広まった。「何かはわからないけれど、新しいことを始めたらいいことがありそう!」という幻想さえ持てなくなっているのだ。

 もちろん、景気回復、雇用の創出が急務の課題だが、若者側というか世間全体からも「何をやってもダメ」「就職したっていいことはない」「自分たちで会社作ったってどうせうまくいかない」という不戦敗ムードを払拭することが必要だ。それは、「なでしこジャパン」の快進撃などではとても解消されないほど、私たちの中に広く深く行きわたっている。

 世の中のリーダーたちは、「復興に向けてがんばろう」という社会全体の決意が若者たちの意欲にも火をつけるのでは、と期待しているはずだ。しかし、今のところ大学などで見ている限り、「私も社会に出たら何かやりますよ!」と学生たちががぜん奮い立っているとは思えない。

 おそらくこれ以上、「がんばれ!キミたちの時代だ!」などと若者をけしかけても、彼らのモチベーションが高まることはないだろう。だとすると、次に打つ手は何か。「たいへん深刻な事態だが、闘ってもらうしかない」と真実を告知し、それを受容してもらう、という「がん告知」と同じやり方しかないのではないか。考えるべきことは多い。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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