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常識を疑え!

震災後3カ月がなぜ重要なのか?

香山リカ(医師)

 震災から3カ月が経過した。

 このくらいの時期がたつと、「復興」にもいろいろな差がついてきて、それが目立ってくる。

 心の復興も同じだ。震災直後は誰もが大きな衝撃を受け、それに伴ういろいろな反応が起きる。眠れない、食べられない、呆然として動けない、あるいは逆に興奮状態に陥って動きまわってしまう、など。これらは、個人によってあまり大きな差はなく、誰もがひと通り体験することだと考えられる。

 しかし、3カ月もたつと、心のあり方は人によってかなりの違いが出てくる。

 初期のショック状態は癒えて、日常の落ち着きを取り戻しつつある人も多いだろう。その一方で、不眠がまだ続いている、意欲がわかず新しい仕事、住まいなどをなかなか探せない、夜になると当時のことを思い出したり夢に出てきたりして苦しめられる、といった人もいるはずだ。性格が変わってしまい、やたら短気になったり攻撃的になったりしている人もいるのではないか。

 これらは、初期の心の傷が後遺症を残したためと思われる。いわゆるPTSD外傷後ストレス障害)に移行しつつあるのだ。まわりの人は「いつまで引きずってるの」などと責めずに、必要なケアを受けるようにすすめてあげてほしい。

 また、今回の大震災では、津波の被害にあった人たちが大勢、行方不明となり、いまだに8000人以上の人の行方がわからずにいる。何らかの手がかりを求めてがれきの中を探し続ける家族も少なくない。

 一般的に、親しい人との別れを経験すると、心は自動的に「喪の作業」と呼ばれるケアのプログラムを作動させる。まずは「そんなわけはない」と現実を否定し、「どうしてこんな目に」と怒りや憤りの感情が噴き出て、それから次第に静かで深い悲しみがわいてくる。それと同時に、「あの人の分まで生きていこう」「いっしょにすごした月日は無駄じゃなかった」と新しい現実に立ち向かう意欲もわいてくる。

 もちろん、立ち直ったかと思ったのに再び怒りや絶望に襲われるなど、回復の道すじは順調とはいかないこともある。プログラムが順調に進んでも、完全に別れのつらさを忘れられるわけではない。しかし、悲しみを抱えながらでもちゃんと立ち直り、前を向いて生きていく人の姿を、私もこれまで診察室で何度となく見てきた。

 家族の行方がわからないままの人たちは、この心の「喪の作業」をいまだに始められずにいるはずだ。頭では「そろそろ区切りをつけて」とわかっていても、「いや、その前にすることがまだある」と気持ちがあの日に戻ってしまう。そんな繰り返しの中で、「時間が止まっている」と語る人もいる。

 周囲は「もう3カ月だから」とか「お盆が来たのだし」と、新しい生活を送るようにすすめるだろう。しかし、その人たちは、まだ立ち直りの第一歩も踏み出せていないのだ。彼らの「喪の作業」はこれから何年もかかるかもしれない。まわりもそのことを理解し、いたずらに「さあ、そろそろ」と背中を押しすぎないことが大切だ。

 私たちはつい、いちばん元気な人、強い人をモデルにして、「あんなに立ち直っている人もいるのだから」とすべての人がそうすべきだと考えてしまう。しかし、それは間違いだ。個人、個人のペースにあった心の復興を、まわりもゆっくりと見守っていきたい。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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